71 アクス王国/宿屋にて②

 やはり、というか、当然、ケントはツッコミを入れた。


 「訓練にしてはやり過ぎじゃね!?殺し合いした後みたいになってるぜ!?てか、遠征中にすることじゃえだろ!?」

 「いやぁ、すみません。あっはっは……」


 ミトとラクトが力なく謝ると、ケントは今度はマナトを見た。


 「いや、ミトとラクトはまだ分かる!ダガーでの切り合いしてて、ヒートアップしたのならまだ分かる!マナト!?何でお前、火傷してんだ!?服、思いっきり穴空いてるぞ!?」

 「ええと……水の能力を得たので、火に触れても大丈夫かなって、思いましてですね」

 「なんだそりゃ!?だって、マナ取り込んでも、基本は普通の人間だろ!?」

 「いやぁ、あははは……」

 「フフっ。予想は外れだったみたいね」


 フィオナは苦笑しながら、ケントを見た。


 「……しゃーねえ。まあ、今日も王国からは出ない予定だから、お前ら、休んでろ」

 「えっ?そうなんですか?」

 「ああ。また、ジンが出たという情報が、入ってきたからな。しかも、今回は王国のすぐ近くらしい」


 マナト、ミト、ラクトは顔を見合わせた。


 「実は、俺は昨日の夜、料亭で食事した後、護衛団の奴らと飲んでてな」

 「あぁ、そうだったんですか」

 「てっきり、フィんぐぶ……!」


 マナトがミトの口をふさいだ。たまにミトは悪気なくデリカシーないことを言う。


 「んっ?どうした?」

 「い、いや、なんでも!」

 「んでだ。飲んでたら、門のほうから、また、ジンが出現したっていう一報が入ってきたんだ。今も、護衛団に加えて、王宮護衛も一緒になって対応にあたってる」

 「王宮護衛、ですか?」

 「ああ。普段は王宮の門番してるんだけどな」


 ……あの王宮の門の前に立ってた、無口の黒甲冑の2人のことか。


 「なるほど」

 「もう一日、様子を見る。こういう時は、無理に動かないほうがいいからな」

 「まあ、地域の情勢もそうだし、ルート変えたり、行商次第で、帰還が予定より遅れるのは、キャラバンではよくあることだからね」


 フィオナが付け足すように言った。


 ウテナとルナも承知している様子で、うなずいていた。


 「とはいえ、ここでずっと過ごす訳にもいかねえ。俺もちょっと、護衛に混じって、状況把握してくる」

 「今日はとりあえず、各自、自由行動とするわ」

 「あっ、でも、お前ら、今日は訓練は禁止だからな」


     ※     ※     ※


 その後、個室に戻ったマナトは、そのままベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。


 「……ジン、強すぎないか?……フフっ」


 マナトは思わず笑ってしまった。


 料亭の亭主こと、ジン=マリード。


 圧倒的だった。


 しかも、一太刀浴びせても、結局すぐ再生してたし……。


 ……あんなの、どうすりゃいいんだよ……。


 ……でも、なんていうか、そこまで悪い存在という感じも……不思議と……しなかったというか……。


……今、王国の外で、暴れてるのは……別の……とかも、言って……。


 ……。


 …。


 ――コン、コン。


 「……んっ」

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