マナト、帰還編
70 アクス王国/宿屋にて①
アクス王国のオベリスクに、朝の日差しが降り注ぐ。その光が、今日という一日の始まりを告げていた。
ケント、フィオナ、ウテナ、ルナの4人は、宿屋に設けられている食堂で、朝食をとっていた。
「おい、聞いたか?」
ケント達の他にも数組いて、別の席で食べている者達の話し声が聞こえてきた。
「夜更け前に、農地の先の密林で、雨が降ったらしいぞ」
「へぇ!それは、めでたいなぁ!」
雨……砂漠が広がるこの世界では、雨とはまさに、天からの恵みそのものだった。雨が振るだけで、人々は喜び、地域によっては祝祭を開くくらいの現象である。
「密林近くに住んでる農家が、たまたま夜中に目が覚めたら、サァ~って」
「マジかよ!その農家ラッキーすぎんだろ」
「でも、すぐ止んだらしいんだよ」
「えっ、雨って、一度降り始めたら……」
雨の話で、別席は大いに盛り上がっていた。
「モグモグ……へぇ、雨が降ったのか」
朝食を取りながら、ケントが言った。
「ケント、雨、見たことある?」
フィオナが聞いた。
「ああ。ムシュマの地へと赴いたときに、一度」
「へぇ~。あたし、まだ、見たことないな~。……パクっ」
言いながら、ウテナは肉をほおばった。
「そのうち、ウテナも見れるわよ。……ところで、そちらの男3人組は?」
「んっ?ん~、まだ、寝てるかもな~。なんか昨日の夜、ちょっと抜け出してたくさいんだよな~」
「あらっ、もしかして、歓楽街に行ってたのかしら?」
「かもな~。特にマナトは、ちゃっかり23歳だし」
「歓楽街って、なんですか?」
ルナがフィオナに聞いた。
「まだ知らなくていいわよ」
「えぇ……気になるんですけど」
「ダメよ」
その時だった。
――ガチャッ。
宿屋の扉が開いた。
日の光を背中に浴びて、逆光となっている3人のシルエットが皆の目に入ってきた。
「あっ、噂をすればじゃん!」
ウテナが3人を指差した。
「お~う、お前らぁ~。何3人で楽しんで……」
3人は、フラフラしながら宿屋に入ってきた。
「お、お前ら……?」
ケントは3人を見て、言葉を失った。
「何が……あったの?」
「ズタボロ……」
「生気が……」
フィオナ、ウテナ、ルナも、唖然として3人を見ていた。
切り傷だらけのミトとラクト、服はところどころやぶけている上、泥にまみれて変色してしまっている。顔や腕に火傷を負ったマナト。こちらも服が焦げて穴が空いてしまっている。
3人とも、やつれ、疲れきっている様子だった。
「あぁ、ケントさん……ちょっと、夜通しで、訓練をしていたというか、はは……」
ミトが言った。
「いやいやいやいや!えっ!?訓練!?」
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