416 マナトについて、ムハドについて

 「公爵、どうされ……」

 「無論だ!すぐ向かうぞ!」


 側近に被せるようにムスタファは言うと、諜報員本部の建物に向かうように、馬車の運転士に指示を飛ばした。


 「私の馬車についてきたまえ!」


 また、ムハドとマナトに言った。


 「君たちは、私の馬車に乗りたまえ。もう少し、詳しく聞こう」

 「分かりました」


 皆が、それぞれの馬車に乗り込んだ。


 ――ガラガラガラ……!


 「……それこそ、ついさっきまで、ラクトと一緒にいたのですが……」


 先頭を走る馬車の中、マナトが詳しく、経緯を詳細に、ムスタファに説明していた。


 マナトの隣には、ムハド。また、向かい合うムスタファの両隣には、側近が2人。


 男5人。少し、狭い。


 「……という、感じです」

 「……なるほど。大体、状況は理解した」

 「はい。……ふぅ~」


 マナトは言い終わり、緊張の糸をほぐすように、ため息した。


 どこにでもいそうな、比較的おとなしめの青年といったところ。


 昼の事情聴取の際も、素直に問いかけに応じてくれた。


 「昼から、なにかと苦労をかけるね」

 「いえ。こんな、状況ですし」


 ただ、彼自身は、マナを取り込むことに成功し、水を自在に操る能力者となっていた。


 そして、ルナとも、交易の際に知り合っている。


 ……もしかして、ルナに影響を与えたのは……いや、さすがに憶測が過ぎるか。


 「……あ、あれ?」


 マナトがなにかに気づいたように、ムスタファの顔をまじまじと見つめた。


 「どうかしたかな?」

 「あぁ、いや、なんでもないです」

 「……実は、ウテナを保護している、天廊という空間に行く手前には、諜報部隊を配置している」


 ムスタファは言った。


 「もしウテナに接触しようとするなら、必ず、先に諜報部隊と接触することになるだろう。もしそこで、そのラクトという者が、ジンであることに気づくことができれば……」

 「いやぁ、そこについては、なぁ……」


 すると、マナトの横に座っていた、先まで無言だったムハドが、口を開いた。


 「どう思う?マナト」

 「……そうですねぇ」

 マナトはうつむき、目を閉じた


 「たぶん、無理だろうなぁ……」

 ムハドが腕を組み、つぶやく。


 この、ムハドという男。事情聴取の時から、もう、ただ者でないことが、分かっていた。


 ムスタファよりも、はるかに年下。ついでに、男前。


 にも関わらず、なぜか、ムハドには、まるで自分の父のような、圧倒的な包容力と、すべてを見透かしているのではないかという眼差しを、ムスタファは感じていた。


 「ジンがどうのこうのって問題では、ないんだよなぁ、たぶん」

 腕組みしたまま、付け加えるようにムハドは言った。


 「僕も、たぶん、無理だと思います」

 マナトも顔を上げる。


 「だよなぁ」

 「はい……今日も、ずっと、キョロキョロしてましたし」


 なんとなく、意味深な、また若干、苦笑気味な感じで、ムハドとマナトがうなずき合っていた。


 「……ふむ、そういうことか」


 2人が、なにを言わんとしているのか、ムスタファも気づいた。


 なんとなく、年齢を重ねていることで、察することのできる、内容だった。


 「あまり、深くは聞かないことに、しよう」

 「さすが。お察し、ありがとうござ……」

 「こ、公爵!」


 馬車の布をめくって、外を見ていた側近が言った。


 「倒れている者が……!」

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