417 手負いの諜報部隊の報告

 先頭を走っていた馬車が止まる。


 「諜報部隊のヤツじゃないか……おい!大丈夫か!?」


 側近2人が布をまくり上げて馬車を飛び出す。その後すぐ、ムスタファ、ムハド、マナトの3人も、外へ。


 大通りとは別の、そこそこ広い通りを走っていたようで、路地は明るく、倒れている者の周りには、人だかりが出来ていた。


 周りが心配そうに見守る中、側近の1人が、その者……諜報部隊の一人を抱き上げた。


 「う、うぅ……」

 「大丈夫だ、息はある……!」

 「お、お前らか……ムスタファ公爵は……」


 どこかを負傷しているのか、苦しそうに諜報部隊の者が側近を見て言った。


 もう1人の側近が、医療班に知らせに走る。


 少し遅れて、ムスタファらも駆け寄った。


 「!?」

 「えっ!?」


 抱き起こされた諜報部隊の者がマナトを見つけると、ゾッとしたような表情に変わった。それを見たマナトもマナトで驚いた。


 「そ、そこにいるのは……!」

 「大丈夫だ。ここにいる者は、ジンではない」


 ムスタファが、その者に言う。


 「そう、ですか……では、サロン対抗戦の時の……」


 ……ジン、やっぱり、僕に化けていたのか。

 諜報部隊の者の、表情の変化を見ながら、マナトは思った。


 「それで、どうしたのだ?」

 「ジンが、本部内に侵入してきました……」

 「やはり……!」

 「7階にいた諜報部隊の前に現れて、戦闘になったのですが、途中で不利と判断したのか、階段を降りて逃走していったので、追いかけたのですが……」


 その者が、悔しさを滲ませた。


 「3階まで降りたあたりで、ジンが攻勢に転じてきて……申し訳ございません……」

 「謝らなくて、いい」

 「……もしかすると、ジンは、今は天廊に入って、ミリー部隊長と、戦っているかもしれません」

 「分かった」


 話していると間もなく、側近の1人が医療班を連れて戻ってきた。


 「いきましょう、ムスタファ公爵」


 諜報部隊の者が担架に乗せられ、運ばれてゆくのを見ながら、ムハドは言った。


 「ああ」


 ムスタファは、目の前にある巨大な建物を見上げた。


 いつの間にか、諜報員本部の正面にいた。扉は開いたままになっている。


 他の馬車に乗っていたメンバーも、皆、馬車から降りていた。


 「ムハド隊長」


 ムスタファが、ムハドに言った。


 「私の部隊は、どうやら、やられてしまったようだ。……君の隊の力を借りることになるやもしれん」

 「大丈夫です。もとより、そのつもりで、皆を連れてきましたので」

 「すまない、助かる。とりあえず最上階にある天廊というところまでゆくことにする!」


 ムスタファを先頭に、ムハド達は諜報員本部内になだれ込んだ。


 ……ラクト、無事でいてくれ!

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