186 岩石砂漠

 ケント商隊は鉱山の村を発ち、岩石の村へと向かっていた。


 歩くラクダ達には、ラピスの入った木箱がしっかりと固定され、乗せられていた。


 先頭のケントの次を歩いている、ラクトが後ろを振り向いた。


 「お、おいミト、マナト!木箱を落とすなよ!ぜったい、落とすなよ!」

 「分かってるって!」

 「ラクト!それ逆にフリに聞こえるからやめて!」


 そんなことを言い合いながら、砂の世界を進んでゆく。


 マナトは周りを見渡した。


 ……だんだんと、景色が変わってきたな。


 大きな石や、自分達よりも遥かに背の高い岩が、所々に点在し始めた。


 ケントが振り向く。


 「お前ら。ここから先は、いわゆる岩石砂漠という土地だ」


 ケントの言葉通り、ゴツゴツとした巨大な、茶色や灰色、また白に近い色の岩石が、歩を進めれば進めるほどに多くなってきた。


 岩石が積み上がって、中部分が風化して、短いトンネルのような状態になっているところもある。


 また、岩石の根本部分には、乾燥に強いトゲのある多肉植物が生えていた。


 「このあたり、岩石砂漠は、これまでよく通っていた砂の砂漠と違って、視界が悪い」


 進みながら、ケントは3人に言った。


 「どこから盗賊が襲ってくるか分からない。ここからが本番だぜ。気をつけて進むんだ!」


 大きな岩石の間を縫うように、また、短いトンネルをくぐりながら、商隊は進んだ。


 マナトは一番後ろを歩いていた。


 ……2人とも、すごい研ぎ澄まされている!


 前を歩くラクトとミトからは、なにやらものすごい、殺気に似た何かを感じさせた。


 「……んっ」


 と、ラクトが左を向いた。


     ※     ※     ※


 岩石砂漠の、ケント商隊が歩いている経路から、少し外れたところに、巨大な岩石と岩石との間にできた、少し広めのほら穴があった。


 そこには、岩石砂漠一帯で盗みをはたらく、盗賊の拠点があった。


 「お頭!お頭!」


 盗賊の部下の一人が、ほら穴に駆け込んできた。


 「カモが来ましたぜ!」

 「おっ、そうか」


 盗賊の頭領の男は部下の言葉を聞き、ニヤリとして立ち上がった。


 他にも数人の部下達がいて、やる気のある顔をしている。


 「相手は?」

 「男4人と、ラクダ10頭、たぶん、鉱山の村から出発したキャラバンですぜ!先頭の一人は、エグい大剣を背負ってるけど、あとの3人は弱そうだ!」

 「なるほどな。男4人か」

 「たとえ戦闘になっても、こっちは10人いるんだ!人数差で、勝てるに違いねえ!」

 「がはは!おい、俺たちは武力で盗みをはたらくような、野性的な盗賊ではないだろ。俺たちは、知恵を働かせて盗みを行う、理性的な盗賊だぜ!」


 頭領の男は周りの部下を見渡した。


 「よっしゃ、お前ら全員、キャラバンに変装しろ。そんで……これだ。前に盗みをした時に手に入れた、眠り薬だ。これを水に注ぐ」


 仕込みを済ませた水の入った小樽を、頭領の男は皆に見せた。


 「そいつらが、喉が渇いた時点で現れて、水を差し出せて飲ませて、眠らせちまえば、もう、あとは、こっちのもんよ!!」

 「おぉ!さっすがお頭!」

 「俺たちの縄張りに踏み込んだ以上は、そいつらの交易品は奪わなければいけねえからなあ!」

 「おぉ、なるほど、ここが拠点か」

 「ラクト、すごい。よく分かったね」

 「へっ?」


 ほら穴の入り口に、2人の男が立っていた。


 「10人か。俺とマナトで十分だな」


 2人の男が、跳躍した。

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