474 再会

 「すみません、お待たせしました」


 青年の男がらせん階段を降りてきて、皆のいる1階の廊下に顔を出し、言った。


 「こっちだよ」

 「……」


 ――カッ、カッ……。


 「……えっ!?」

 ミトが驚きの声をあげる。


 「あっ!」

 ケントが、その見覚えのある顔を指差した。


 「ルナさん!」

 そしてマナトも、姿を現したその人の名を呼んだ。


 ゆったりとした、肩から胸のあたりまでは金色で、胸の下から白金色に徐々に変わっていき、膝の少し上あたりからは、オアシスの水のようなキラキラした光沢のある水色へと、3色のグラデーション鮮やかなドレスに身を包んだ、ルナ。


 両腕の袖は長く、先はドレスの膝下と同じオアシス色をしていて、手は隠れている。


 白いマフラー風のふわふわした肩掛けが、優しくルナの首もとを包む。


 前にマナト達と一緒に交易したときよりも、少し長くなった茶色の髪の毛は後ろで余裕をもって束ねられて、頭上には小さな銀のヘッドドレスが輝いている。


 ――カッ、カッ。


 歩くと、ドレスの下から、白いヒールの、先の尖ったつま先が顔を出した。


 「……お、お久しぶりです」


 ルナは、少し緊張している様子で、微笑みながら、言った。


 ……なんか、めっちゃ綺麗になってらっしゃる!


 しばらく会ってない、と言っても、何年もという訳ではないくらいの期間のはず……それなのに、随分と大人になったと、マナトは思った。


 ゆったりとしたドレスではあるが、それでも、前より細身になったことが、分かる。


 また、履いている靴のせいか、背は高い。


 もう少し、アクス王国交易時に共行したときは、子供っぽかったような印象だった。


 その面影は、いま、目の前にいるルナからは、微塵も感じられなかった。


 「まさかルナさんが、ムスタファ公爵の娘だったとはな~」

 「ホント、ビックリですね」


 彫刻の前まで歩いてきたルナに、ケントとミトが言う。


 「ウフフ、私のほうこそです……」


 ルナは笑顔で2人に言うと、マナトに視線を向けた。


 マナトも微笑み返し、被っていたターバンをとった。


 「アクス王国以来ですね、ルナさん」

 「はい」

 「メロの国に来たから、会えるかな~って思ってたんですけど、まさか、こんなところで再会できるなんて、思いもしなかったですよ」

 「私もです、マナトさん」

 「再会できて、とても嬉しいです」

 「はい……」


 化粧を施したルナの頬が、少し、赤くなる。


 そのドレスの下部よりも青い瞳が、潤みを帯びてゆく。


 その瞳に、マナトが映る。


 ……やっぱり青いなぁ~!

 ルナの瞳を見ながら、マナトは思った。


 「なんと!この美しいご令嬢と、皆さん、お知り合いだったとは!」

 「つくづく、我々の縁は、深いようですなぁ、シュミット殿」


 シュミットとムスタファが、笑い合った。


 「では、シュミット殿」

 「承知いたしました」


 シュミットがうなずく。


 「ルナよ」


 ムスタファの声に、ルナが振り向いた。


 「それでは……」


 シュミット、また、サーシャの召し使いの2人が出てきて、彫刻にかけられている布を持ち、一礼。


 ――ファッサッ。


 「……」


 しばしの間、ルナも、マナトも、また他の誰も口を発することなく、姿を現した、十の生命の扉の彫刻を眺めていた。

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