332 ライラと黒髪の男①
「でしょうね。この国では、あまり見ない顔だもの」
「あはは、そうですか」
「私、ライラ」
「マナトです」
「どこから来たの?」
「はい、西のサライから」
……いや、どこの国とか、村からっていう意味で、言ったんだけど。
ライラは思いながら、黒髪の男……マナトを見つめた。マナトは、にこやかにライラを見つめ返している。
……まあ、いいわ。
ライラは境界通りの、露店を指差した。
「どう?お腹空かない?」
「あぁ、いいですね」
「おごってあげる」
「いいんですか?」
「旅、大変だったんでしょ?私、キャラバンだから、よく分かるの」
「ありがとうございます」
ライラとマナトは、露店に立ち寄った。
いくつかの、甘かったり、酸っぱかったりするソースをつけて食べるナンを購入し、2人は露店の横の長椅子に腰掛けた。
……誰かと一緒なら、食べても大丈夫でしょ?いや、大丈夫よね!
謎の理論を、ライラは頭の中にいるフィオナに言い聞かせる。
「……うん。美味しいですね」
「でしょ。ムグムグ……」
「この、酸っぱいソース、とても合います」
「私は、甘いのも、酸っぱいのも、どっちも好き。いっぱいつければつけるほど、好きね……ムグムグ」
「あはは、そうですね。……あの、さっきなんですけど」
「ムグ?」
「護衛の皆さんは、子供や婦人たちに、いったい、なにを、されていたのでしょうか?」
マナトが、ナンを食べながら、ライラに問いかけた。
「なにか、針を持って、子供に刺そうとしてて、子供は嫌がってて、そしたら、ライラさんがいらっしゃって、こう、抱き締めて……」
マナトは、先のライラの真似をした。
「あの間に、なにを?」
「血の確認よ」
「血の……」
ライラの言葉を聞くと、マナトは無言になった。
「なんでか、よく分からないんだけどね~」
「……」
「ちょっと前に、キャラバンに対して、まずやるようになったんだけど。ほんとここ最近になって、国民全体に向けてもやるようになったのよ」
「……」
マナトは無言のまま、先の歩いてきた方向を眺めた。
先の子供たち、婦人たちはいなくなったが、別の者が護衛に針を刺されているのが見える。
「あなただって、メロの国に入る前に、されたでしょ?」
「……えっ?」
マナトは振り返り、ライラを見つめた。意外そうな表情をしている。
「だって、いま、国に入るためには、されることになってるでしょ?」
「えっと、……なにを?」
「いやだから、血の確認よ。腕に、針をたてられたでしょ?」
「あっ、あぁ、そっか、そうですよね」
……えっ、この人、血の確認を、受けてないの?
「すみません。この国で、いろいろあって、忘れていました」
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