333 ライラと黒髪の男②

 「そうなのね。……ムグムグ」


 ……なんか、ちょっと、このマナトってコ、変。


 ライラはナンを頬張りつつ、思った。マナトのにこやかな表情の裏にある、かすかな怪しさと、魅力を、ライラは感じ取っていた。


 血の確認に興味があるのか、マナトはまた、護衛が街の者たちに針をたてる風景を眺め始めた。


 「……よいしょっと」


 ライラは長椅子から立ち上がった。


 「なんで、血の確認しているか、分かる?」

 「えっ?」


 マナトは振り返った。


 「どうやらこのメロの国に、ジンが潜伏していて、そのあぶり出しを行っているのよ」


 若干、噂されている内容よりも、断定気味にライラは言った。


 「えっ」


 マナトの細い眉毛がピクッと動いた。ライラが思った通りの反応。


 「そっ。マナトくん。ちょっと、メロに来るタイミングが、悪かったのよね。あなたが思っているより、この国はいま、危険な状況に陥ってるのよ」


 ライラは意図して、若干誇張気味に話を続けた。


 実際、ジンが潜伏しているという噂は、血の確認を行ったことで、そこいらでささやかれるようにはなっていた。


 しかし、国民自体、面白話としてネタにしているだけで、本気で思っている者は少ないのが現状だった。


 「危険な状況……そうだったのですか」


 言うと、マナトも立ち上がった。


 「そうよ。いつ、ジンに襲われるかも分からない」

 「たしかに」

 「だから、私が、下宿先まで、連れてってあげる!」

 「えっ?」


 マナトは意外そうな顔をして、首を振った。


 「さすがに申し訳ないですよ!ライラさんこそ、早く帰宅したほうが……!」

 「だいじょ~ぶ!私、キャラバンだから、そこそこ強いのよ」

 「でも……」

 「女の良心を、男は断っちゃダメなのよ」

 「……そうですよね、はは」


 苦笑しつつも、マナトは頭を下げた。


 「ありがとうございます、ライラさん」

 「どこにあるの?下宿先」

 「ええと……」

 「あの、あっちのほうなんですけど……すみません、名前、忘れちゃいました」


 境界通りに沿うように、マナトは指差した。


 「でも、ここからちょっと、歩いた距離です」

 「境界通り沿いね。とりあえず歩きましょうか」


 ライラとマナトは、肩を並べて歩き出した。


 「あぁ……けっきょく、食べちゃったなぁ」


 ライラは独り言のようにつぶやいた。


 「どうしたんですか?」

 「さっき、私と同じサロン仲間から、最近、チクチク言われるのよね……」

 「なにをです?」

 「……」

 「あっ、なんでもないです」

 「あはは!なかなか、察しがいいじゃない」


 ……このコ、嫌いじゃないかも。


 話しやすく、それでいて謙虚で、一緒にいてストレスを感じない。


 無論、やはり少し怪しい雰囲気はあるものの、自然、マナトに対してライラは好感を持った。


 「ちなみに、聞いていいですか?ライラさん」

 「いいわよ。なに?」

 「ジンについて、どう思いますか?」

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