173 語る夜①

 「すみません、お待たせしました」


 一度、外に出ていたジャンが、戻ってきた。


 「これ、集会所の食事の残り物ですが、ぜひ」


 手には集会所での食事の残りと、酒が持たれていた。


 「集会所、どうでした?」

 「盛り上がっていましたよ。村のみんなも、お仲間の皆さんと楽しそうにしてたし。でもジェラードさん、なぜか上半身裸になってましたけど……」

 「あぁ、いつものことなんで」

 マナトとリート、同時に言った。


 「そ、そうですか」


 ジャンと、マナトとリート。3人で卓を囲んで、食事を始める。


 マナトは魚を食べながら、改めて部屋を見渡した。


 ……僕の家よりも、質素なんですけど。


 ジャンは村長ということで、大きな家を予想したいたが、この湖の村内でもかなり小さなほうだったことに、マナトには少し意外だった。


 「フフっ。私は独り身でもあるので、この大きさで十分なんですよ」


 マナトの心境を察したような口調で、ジャンは言った。


 「結婚などはされないのですか?」


 この村の人たちは、誰も皆、ジャンのことを慕っている。


 さらに、凛々しい容姿に、誠実な言動。その上勇気ある行動とりゃ……


 当然ながら、村内での女性人気も、格別に高かったのだ。


 「私はジンですよ。万が一でも、バレる訳にはいかないのです」

 「あぁ、なるほど……」


 ……そうだった。こう考えると、ジンも、いろいろと大変だなぁ。


 「ちなみに先代の村長は、私がジンであることを、知っていました」

 「あっ、そうだったんですね」

 「それでも、私のことを、一人の人間として、育ててくれたんです……」


 しみじみと、ジャンは言った。


 「そ、そのあたりに関して、いろいろと聞きたいことが、あるんすけど……!」


 リートが言った。


 少し興奮気味だ。


 こうして、ジンと面と向かって話ができることが、やはり新鮮なのだろう。


 その点に関しては、マナトも同じだ。


 「何なりとおっしゃって下さい。私が知り得ていることなら、すべてお話いたします」

 「ずっと、ジンとこうして出会ったら、聞いてみたいって思ってたことがあるんすけど……ジンって、どこからやって来るんすか?」


 ……僕も、それは聞こうと思ってた。


 マナトも気になっていた。


 「……」


 ジャンが、無言で腕を組んだ。なにか猛烈に難しい難題を前にしたような、そんな表情でう~んと唸った。


 「……フフっ」


 やがてジャンは、苦笑しつつ、申し訳なさそうに言った。


 「すみません。それは、分からないです」

 「分からない……ですか」


 リートもマナトも、解せぬといった表情に、自然となっていた。


 「えっと、そうですね……」


 2人の表情を見たジャンは、何か適切な言葉を探すように考えつつ、言葉を次いだ。


 「私の場合は、とも、言ったほうが適切かも知れないのですが……おそらく人間が思っているほど、ジンは、ジン自身、己について知っていない。無知だということです」

 「……えっと、それってどういう?」

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