293 ムハドの労い、マナトの水配り

 するとムハドは、今度はミトとラクトに笑顔を向けた。


 「ミト!ラクト!お前ら、すげえなぁ!遠巻きから見てても、明らかに活躍していたぜ!めっちゃ強かったんだな!」

 「い、いやぁ、それほどでも……」

 「へへ……」


 ミトもラクトも、恥ずかしそうに、嬉しそうにしている。


 「それと、」


 ムハドは、ラクトの横にいたサーシャを見た。


 「サーシャ、あんたも、見てたぜ。戦闘に加わってくれて、感謝する」

 「大丈夫。……お互いさまだから」

 「そうか。いや、助かったよ、なっ?ラクト」

 「えっ、あっ、そっすね」


 ムハドにふられ、ラクトはサーシャを見た。


 「ありがとな」

 「……」


 サーシャは少し頬を赤らめ、ラクトから顔をそむけた。


 武器狩りの盗賊との戦闘も終わり、周りでは、他のキャラバン達が安堵の表情で談笑したり、ラクダ達を整列し直したりしていた。


 「あっ、マナトだ」


 ミトが指差す方向を見ると、キャラバン達に混じって、マナトがいた。


 「お水どうぞ~、お疲れさまです~」


 マナトは水壷から水をコップに注いで、戦闘を終えたキャラバン達に提供していた。


 「そういや、喉乾いたな~」

 「お水……」

 「マナト~!こっちにも、水ちょうだ~い!」


 ミトが手を振ると、マナトが気づいて、こちらへやって来た。


 「は~い」


 マナトは両手でお盆を持っていた。お盆の上には、複数のコップ。


 ――シュルルル……。


 水流が水壷から出てきた。


 ――シュシュシュ……。


 水流は複数に分裂すると、それぞれがコップに入ってゆく。


 「は~い、どうぞ~」


 マナトはそのお盆をミトに、サーシャに差し出した。


 「すごい、手慣れてるわね」


 サーシャが関心した様子で、お盆のコップを取った。


 「ええ、まあ、前の世界で似たようなこと、よくやってたので」

 マナトは笑顔で応えた。


 「マナト、俺にも~」


 ラクトがお盆の上のコップを取り、ゴクゴク飲んだ。


 「んっ」


 すると、マナトがお盆をコップに置いた。


 ――もみもみ。


 そして、いきなり、マナトはラクトの脇腹あたりを揉み出した。


 「ぶギャハハハいやなにしやがる!?!?」


 ラクトは水を吹き出して叫んだ。


 「う~ん……あっ、そうだ。ラクト」

 「えっ?」

 「今夜、サライに到着したら、一緒にお風呂に入ろう」

 「はぁっ!?」


 ――ブー!!


 サーシャが水を吹き出した。


 「マナトお前、誰になにを言ってるのか分かってるのか!?」

 「ラクトの裸が、見たいんだ」

 「いやなにそれ気持ち悪いんだけど!!」

 「あっ、でも確かに……」


 2人の会話を聞いていたミトが気づいて、口を開いた。


 「ラクトって、村の銭湯使わないよね」

 「いや、そりゃ実家に風呂があるからな」

 「だから、マナトはラクトの裸、見てないんだよ」


 ミトが冷静に、ラクトに言った。


 「……えっ?……えっ?」


 サーシャが動揺した表情で、ミト、ラクト、マナトの3人を見比べている。


 「いやいやだからってそれ理由になってねえよ!?」

 「ラクト、落ち着いて。ただ単に、僕は、ラクトの身体に、興味があるだけなんだ」

 「いやだから気持ち悪いんだよ!!お前が落ち着け!!」


 3人が、言い合っている。


 「……」


 それを聞いていたサーシャの桃色の顔は、真っ赤になっていた。

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