岩石の村、依頼品の納品

432 マナトとミト、宿屋にて

 「ふぁ~」


 宿屋で、寝ていたマナトは、目を覚ました。


 「……」


 ミトはまだ、同じ布団の中で寝ている。


 「よいしょっと……」


 ミトを起こさないように、そろ~っと、布団を出た。


 昼過ぎだろうか。外は明るかった。


 「……」


 ――シュルル……。


 水壷から水流。マナトを一度くるりと回転し、洗面の台に落ちる。


 ――ジャブッ。


 少し溜まった水で、マナトは顔を洗った。


 「ふぅ~」


 気持ちがいい。目が覚める。


 ――カチャッ。


 「うぃ~入るぜ~」

 「どもっす~」


 扉が開いて、ケントとリートが個室に入ってきた。リートはなにか購入してきたようで、大きな袋を持っている。


 「……んぁ?」


 2人が入ってきて、ミトは目を覚ました。


 「おう、ミト。昨夜は、ご苦労だったな」

 「あぁ、はい。……んん~!」


 ミトはケントに返事すると、起き上がり、大きく背伸びした。


 「マナトもな」

 「いえ、とにかく、ラクトが無事で、本当によかったです……」


 諜報員本部に突入後、傷を負って倒れている諜報部隊の隊員を介抱しつつ、どんどん、本部内を上っていった。


 ミリーという、諜報部隊の部隊長が、天廊と呼ばれる空間の、空を模した廊下で倒れていて、そして、その先の奥の間で、ラクト、そして、ウテナがラクトに覆い被さる形で、倒れていた。


 2人とも傷を負い、とりわけラクトは肩にダガーが刺さっていて、倒れていた周りの砂の色は赤く染まっていた。


 ラクトが意識を取り戻したのは、倒れているのを見つけてからほぼ丸一日経ってからだった。その間、ミトもマナトも、ずっとラクトの側にいた。


 『腹、減った……』


 ラクトがこの言葉とともに意識を取り戻したとき、マナトは周りを気にすることなく、声をあげて泣いた。


 そして一旦、ミトとマナトは宿に戻ったのだった。


 「ケントさん達は、ラクトのところへ?」

 「ああ。今、行ってきた」

 「様子はどうでした?」

 マナトが聞いた。


 「おう、みるみる元気になっていってるぜ。左肩の傷は深いが、それでも、一週間も経てば直るだろう」

 「い、一週間ですか?」


 ……さすが、ホモ=バトレアンフォーシス。

 マナトは思った。


 「つ~か、もう、左肩回してるぜ」

 「いやそれは安静にしておいたほうが……」

 「ただ……」

 「ただ?」

 「なんか、時々、ぼぅ~っとして、視点が定まってないというか、放心状態になっている時があるって、ずっと看病してくれているサーシャが、言ってたんだよな」


 ケントが、首をかしげながら、言った。


 サーシャも、マナトとミトと共に、看病にあたってくれていた。そして、マナトとミトが宿屋に戻ってからも、サーシャは引き続きラクトのもとにいた。


 「マジですか。……大丈夫なのかな?」

 「ん~、どうだろうな」

 「ジンの、影響とか……?」

 「……」


 諜報員本部に突入し、天廊で2人を発見するまで、誰も、ジンと遭遇することは、なかった。

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