344 護衛の苦悩/日時計

 「ウフフ、そうですよね」


 婦人の後ろで、微笑む一人の若い女性。


 端正な顔立ちに、少し切れ長の赤茶色の目。


 肩までの長さの黒髪、女性にしては高めの身長。


 全体的に細身で、青を基調とした、おそらくアクス王国で購入したであろう、植物模様のエレガントな柄の、肩から膝下まであるドレス風の服。


 「あれは……」


 護衛隊長も、よく知っていた。というより、この国で、おそらくいま、最も有名な人物だ。


 「キャラバンの、ウテナだ……」

 「……」


 他の護衛の部下たちはウテナを見ると、少し複雑な表情をした。


 「でも、ウテナちゃんがいるなら!」

 「そうよ!たとえジンが現れたとしても、ウテナちゃんがいれば、ね!」

 「そうね!」


 先まで不安そうにしていた婦人たちが、ウテナの側に寄って、安心した様子で言い合っている。


 「……チッ」


 その光景を見ていた護衛の一人が、思わず、舌打ちした。


 「おい、舌打ちが聞こえたぞ。あと、顔がこわばっている」


 もう一人の護衛が注意した。


 「分かってるよ……。でも、お前だって」

 「……」


 いまの光景……護衛たちにとって、あまり愉快なものでは、なかった。


 ワイルドグリフィンの一件以来……、護衛は、よくキャラバンと比較されるようになっていた。それも、悪い意味で。


 論功行賞では、護衛たちも称えられていたものの、世間の目は、評価は、厳しかった。


 実際、国外に出て、あらゆる危険に立ち向かうことの多いキャラバンたちは、平場の戦いに強かった。


 その中でも、抜きん出て人目を引き、活躍したのがウテナだった。そんなウテナと比較されるとき、護衛はいつも、下だった。


 「ウテナちゃんがいれば、ジンがいても安心よねぇ!」

 婦人の一人が大声で言う。


 無論、目の前で話す婦人たちは、悪気があって言っている訳ではない。


 「……」


 しかし、だからこそのやりきれなさが、護衛たちには、あった。


 「ウテナが、なぜ……?」


 そんな中、護衛隊長は、まったく別のことを考えていた。


 「……」


 ポケットから、金属の輪っかを組み合わせてつくられた時計……日時計を取り出した。


 手の平で、垂直に持つ。すると、陽の光で輪っかの中にある針が影をつくった。


 その影が、輪っかに指し示されている時間を指し示す。


 日時計は、午後を少し過ぎた時間を指している。


 ……やはり、おかしい。なぜここに、キャラバンのウテナが?


 護衛隊長は、キャラバンたちが現在、サロン大会真っ最中なのを、知っていた。


 いまここに、ウテナがいることは、ありえない。


 ……まさか。


 「でも、解決したみたいで、よかったです。それじゃあ」


 ウテナは微笑んだまま、横を向き、歩き出そうとした。


 「ちょっと、待ちたまえ」


 護衛隊長は、ウテナに声をかけた。

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