343 捜索
護衛隊長は、住宅の屋上から、下の景色を眺めた。
「わ~い!」
路上で、子供たちが遊んでいるのが見える。
「奥さん、聞きました?……それで、……ああで……」
「それ、ホントなの?」
「でしょ?それでね……!」
「あらやだ!」
また、子供たちの近くで、婦人数人の井戸端会議をしている。
黒髪の男は、いないようだ。
住宅の屋上からは、集合住宅や小屋なども見られ、建物の種類によって高さはあるものの、密集しているため、建物から建物へと飛び移ることが可能だった。
「よし」
護衛隊長は、下にいる部下に指示を飛ばした。
「俺は屋上をつたって少しずつ前に進む!ボウガン隊は、俺が見える範囲で散らばって、ついてこい!別動隊だったメンバーは、ボウガン隊のサポートに回ってくれ!」
「了解!」
護衛たちがサッと動いた。
「よっと……!」
屋上から、別の住宅の屋上へ、護衛隊長は飛び移った。
再び、怪しい者がいないかをチェック。壮年が一人で、口笛を吹きながら歩いているのが見える。
「……」
護衛隊長が、部下に合図を送る。護衛たちも、じりじりと前進した。
「まあ、護衛隊さん!?」
婦人たちが、ボウガンを持っている護衛を見て驚いている。
「なにをしているんですの!?そんな、物騒なもの持っちゃって!?」
「血の確認なら、私たち、先日終わらせましたわよ!?」
「違う……!」
護衛は、みけんにしわを寄せながら、言った。
「とうとう、この国内に、ジンが出てしまったんだ……!」
「えっ……」
「おい!」
もう一人、サポート役の護衛が、手を振っている。
「隊長の合図だ!前進するぞ!」
「分かってる!」
「ぎゃあぁ~!!」
「!?」
進行方向の先のほうで、女性の甲高い悲鳴が上がった。
「悲鳴!?」
「えっ!?まさか!?ホントに!?」
「くっ!被害が……!」
婦人たちがうろたえる中、護衛たちが駆け出す。
悲鳴が聞こえたのは、少し進んだ先の、集合住宅。他に、悲鳴を聞いた数人の通行人が、立ち止まっているのが見える。
護衛隊長が、住宅の屋上から素早く降りてきた。
「あの集合住宅の右端の部屋だ!」
「了解!突入します!!」
――ガチャっ!
護衛隊長とボウガン隊の2人が、悲鳴の上がった家の扉を勢いよく開けた。
扉に入ってすぐの廊下で、一人の若い女性が座り込んで、恐怖の面持ちで自分の部屋を見ている。
「大丈夫ですか!?」
「ジンは!?」
「む、虫がぁ~!!」
3人は唖然として、その女性を見守った。
「む……し……?」
「お願いします!!あたし、虫がダメなんです~!!」
「……」
護衛隊長はなにも言わず、女性の部屋に侵入してきた、虫をやっつけた。
「あぁ、本当にありがとうございます!」
「いえ……」
護衛隊長とボウガン隊の2人は外に出た。
外には、悲鳴を聞いて駆けつけたであろう、近くに住む住民たちが集まっていた。先の井戸端会議の婦人たちや、口笛を吹いていた壮年もいる。
「ジン?嘘だろ?」
「いつものヤツだろ」
「でも、さっき護衛さんたちが……」
集まった皆が、口々に言い合っている。
「どうせまた、虫かなんかで悲鳴あげたんだろ?そんなに嫌なら、引っ越せよな」
「あら、そんな言い方ないでしょ?」
婦人が振り向きながら、言った。
「ねえ、ウテナちゃん?」
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