238 認知革命

 マナトは前にいた世界で、大学というものを出ており、そこで学んだのか、なかなかに知識が豊富だった。


 「なんだよ、認知革命って?」

 「人間が、自ら虚構を創造し、信じる力を得たこと、だそうだよ」

 「……んん~」


 ラクトはここで、思考がストップした。


 自ら虚構を創造し、信じる力……認知革命という訳の分からない言葉に対して、なんだと問いかけたにも関わらず、返ってきた言葉が、また訳が分からないものだった。


 「なぁ、おい、ステ……」


 ラクトはステラのほうを向いた。


 「……」


 ステラはミトを見つめ、ぽわ~んとしている。


 いまミトの言ったことが、どういうことか、分かるか?そう聞きたかったのだが……。


 ……ダメだコイツ、オレ以上に思考が停止してやがる。


 ステラに聞くのを諦めたラクトは腕を組み、う~んと、思考を巡らせた。


 ……自ら虚構を創造し、信じる力、か。


 少し考える。


 虚構、創造、信じる……。


 「ミト、すまん。さっぱり分からん」

 ラクトはすぐに言った。


 「あはは、僕もそうだったよ」

 「そもそもさ、虚構って、なんだよ?虚構って」

 「いやまあ、そこだよね。マナトが言ってたのはいくつかあったんだけど……」


 するとミトは、人差し指を下に向けた。


 「まずね、村とか、国」

 「村?このキャラバンの村って、ことか?」

 「そうそう。グリズリーとか、デザートランスコーピオンは、村とか国といった大きな規模の社会形成ができないんだって」

 「いや、そりゃそうだろ」


 ミトの言葉に、ラクトはツッコミを入れた。


 「いや、ラクト、これが、すごいことなんだよ。人間にしかできないっていう」

 「ふ~ん」


 次に、ミトは持参した巾着袋の中から、クルール地方で取り引きできる銀貨を取り出した。


 「それと、この貨幣」

 「ほう」

 「マナトの世界では、この貨幣がものすごい力を持ってるんだってさ」

 「へぇ」

 「これも、言ってしまえば、ただの銀」

 「ただの銀って、銀は、価値あるだろ?」

 「その価値を決めてるのは、人間って、ことだよ。価値を決めて、共有することで、さまざまな物々交換を可能にしたんだって」

 「ふ~ん」

 「それで、3つ目が……なんだと思う?」


 ミトがラクトを見ながら、笑顔で言った。


 「分からん」

 「ラクト、少しは考えてよ!」


 ミトは苦笑した。


 すると、ミトは、ステラを見た。


 「ステラさん」

 「は、はい!」

 「いま、なにか、書物、持ってたりする?」

 「え、えっと……」


 ステラは自分の鞄の中から、本を一冊、取り出した。


 ステラから、ミトは本を受け取った。


 「これ」

 「……んっ?どゆこと?」

 「物語だよ」


 ミトは本をぱらぱらとめくった。

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