394 ジンの目的

 ラクトは立ち止まった。


 「……」


 マナトも気づいて歩くのを止め、振り向いた。


 「どういう意味なんだよ、マナト」

 「この、メロの国では、いま、」


 マナトは落ち着いた口調で、ラクトに言った。


 「公爵らが中心となって、ジンに対抗するための、さまざまな策が議論されている」


 頭上のマナのランプが、マナトを照らしている。


 「その中で、クルール地方以外での、さまざまな地方や、さまざまな国で起こったジン騒動、また、ジンの事件を記した文献を、諜報員が集めていて、どのように抵抗し、どのように戦ったのかを調べていたんだ。なんとかして、ジンに対抗できる手段はないか、とね」

 「なるほど」

 「……しかし、その文献のどれもが、やはり、ジンに対して、明確に『倒した』という記述はなかったようで、どこの国や村も『撃退』がやっとだった」

 「……そうか」

 「いまだ人類は、ジンに対して、有効な手だてを持たない。……だけど、そんな文献を調べていく中で、いま、このメロの国にとって重要と思われるものが、出てきた」

 「……それは?」

 「それは、ジンの目的について記されている文献だった」

 「ジンの、目的……」

 「そう。……っと」


 大通りの市場を、少し過ぎたところ。


 マナトが立ち止まった。


 建物と建物の間にある、細い横道に、目線を向ける。星の明かりは地上に届いておらず、その先は真っ暗で見えない。


 「ここから、中に入るよ」


 マナトが暗闇へと入ってゆく。


 ラクトもそれに続いた。


 「それは、」


 歩きながら、マナトは続けた。


 「クサリクという地方にある大国から取り寄せいていた文献に書いてあったんだそうで、そこでは、メロ共和国で、いま起こっているのと同じような事件が起こっていた」

 「……」

 「ジンは、『この国の救済』を謳っていた。そして、とある人物に化けていた。それは、その大国で英雄と呼ばれた男で、皆の羨望と、……嫉妬の眼差しを受けていた」

 「羨望と、嫉妬……」

 「ジンは英雄と呼ばれた男に接触したのち、その男に化けたジンは、少しずつ、その大国に住む国民たちを、襲い始めた。次第に、国は混乱した」

 「いまの、メロの国と、状況は同じ……」

 「そんな中、ある時を境に、ジンの出現がピタッと止んだ」

 「……」

 「『救済は成った』と、ジンは、その国から去ったという。その英雄と呼ばれた男の犠牲を代償にして……」

 「……」

 「文献に書いてあったもの……それは、ジンの目的は……ジンの言う、救済とは、英雄の男、一人だけの排除を目的としていたものだった、と」

 「……」


 だんだんと、暗さに目が慣れてきた。


 だが、どこをどう通ってきたかは、ラクトはもう、分からなかった。


 「いま、このメロの国の公爵の中で、ジンと徹底交戦を表明しているのは、ムスタファ公爵と、アブド公爵の、2人のみ。他の公爵たちは……」

 「……」

 「それで、ジンが姿を消すならと……」

 「フザけるな……!」

 「……だから、ウテナさんを、救い出さなければならない。……さあ、着いたよ」


 マナトが立ち止まる。そして、目の前にある建物を、見上げた。

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