393 夜の大通りを行きながら

 夜。


 大通りに面した、とある酒場では、いつもより、少し早めに店を閉じようとする、店主の姿があった。


 「おいおい!店主、ちょっと!」


 1人の若い男がやって来て、酒場の店主に話しかけた。


 「ちょ、えっ、もう!?もう閉めるのか!?」

 「ああ。最近は、夜になると物騒だからね」

 「看板娘は?」

 「先に帰宅させたよ。さっきも、ここからそんなに遠くない住宅街で、騒ぎがあったばかりだからな」

 「ちぇっ。みんな、気にしすぎだろ」


 若い男がつまらなそうにつぶやく。


 「店主も、そう思わないか?」

 「いやいや、お前も飲み歩いてないで、さっさと家に帰ったほうがいいだろう」

 「そんなの、本当にジンがいるんなら、家の中にいようがいまいが、一緒だろ!」

 「そんなこと言ってると……」


 店主と若い男が、会話している。


 「……」

 「……」


 その横を、マナトとラクトは、無言で通りすぎた。


 賑わいを見せていた大通りも、段々と落ち着きを見せ始め、人の数が減りつつある。


 「……」


 ラクトが、足を止めた。


 目の前の、大通りに設置されている、オレンジ色にボンヤリと灯る、マナのランプの下。


 そこに、若い男と女が立っている。


 「私、怖い……」

 「大丈夫、大丈夫だよ……」


 2人、ささやき合う声が聞こえる。


 ――ヒュゥゥ……。


 昼間とうって変わり、冷気を帯びた風が、大通りを流れゆく。


 その寒さが、かえって2人を寄り添わせているように、思えた。


 「いこう、ラクト」

 「……ああ」


 抱き合う2人のすぐ横を、マナトとラクトは通りすぎる。


 「どうしたの?」


 少し前を歩くマナトが振り返って、ラクトに言った。


 「いや、別に……」

 「そう?」


 マナトは再び前を向き、歩を進める。


 マナトは淡々としているようだ。


 ……一瞬、なんていうか、いろいろ想像しちまったじゃねえか。堂々と人前で、イチャイチャしやがって。


 若干、乱れた心を、落ち着かせる。


 ……てか、大丈夫か?これ。


 単独行動は控えるように言われていたが、結局、ムハドやケント、ミトなど、キャラバンの村の面々には、何も言わずに、出てきてしまった。


 ……それでも。


 「マナト」

 「んっ?」

 「教えてくれ。ウテナはいま、元気にしてるのか?」

 「……この国は、」


 マナトが、歩きながら、話し始めた。


 「この国は、公爵と呼ばれる少数の老練した人物達が、国を動かし、国の方向性を決定しているんだ」

 「おう」

 「意見が分かれた場合は、多数決による決定も、あるみたいなんだよね」

 「へぇ」

 「取り調べの時、別室の声が、聞こえてきてしまったんだ。公爵たちの間で、どういう議論がいま、なされているのか……」

 「……」

 「ウテナさんを生かし、ジンと真っ向から戦うか。もしくは、ウテナさんに……、」


 マナトは一瞬、口をつぐんだが、やがて言った。


 「ウテナさんの死、すなわち、ジンの目的を達成させることで、これ以上被害を出さないように、するかを……」

 「……なんだよそれ」

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