395 諜報員本部①

 外観は暗くてまったく分からないが、目の前には、かなり大きめな建物であることが伺える。


 「ここは……?」

 「諜報員本部」


 ラクトの問いに、マナトは答えた。


 「諜報員が、各所で集めた機密情報が、ここに集積され、保管されているんだ」


 マナトがラクトを見た。目が慣れてきて、暗闇でも、マナトの顔は、よく見えた。


 「この中に、ウテナさんがいる。……行くよね?」

 「当たり前だろ!」

 「僕が言うのもなんだけど……」


 マナトは再確認するかのように、ラクトに言った。


 「国家を揺るがしかねないような内容に、僕らはいま、手を出そうとしている。かなり、危ないことをしていることは……」

 「くどいぜ、マナト」


 ラクトはマナトの言葉を遮った。


 「……分かった!」

 「……フッ。まあ、マナトらしいといえば、マナトらしいか」

 「いこう……!」

 「ああ……!」


 目の前にある扉は、開いている。


 2人は本部内に入った。


 「なんか、マナトがそう言う割には、不用心じゃね?」

 「こっちは裏口になっているんだ。実は、裏口から入るのは、かなり難しい……というか、普通は、無理なんだ」

 「えっ、でも普通に、大通りの横道から入ってきたじゃねえか」

 「道は一本しかない。普通の人じゃ、まずここにたどり着けない」

 「……マジかよ」


 ……さすが、マナトだな。

 ラクトは思った。


 建物の中に入ると、足元が、ひんやりした。


 通路には、両側に小さなマナ石の炎が灯っているだけで、かなり暗い。


 しんとして、物音ひとつ、聞こえてこない。


 「……」

 「……」


 できるだけ音を殺しているのに、足の音がやたらと大きく感じられた。


 いくつも過ぎ去る扉。


 「……誰も、いないのか……?」

 ごくごく小さな声で、ラクトは言った。


 いくつも部屋はあるが、まるでどの部屋にも、人が住んでいないような、そんな印象。


 「いや……」


 マナトも小さな声で言う。


 「必ず、ウテナさんの部屋へとたどり着くまでに、実践経験豊富な、諜報部隊が、立ちはだかってくるはずだよ」


 進んでいくと、やがて、右手に、階段が見えてきた。


 「階段だな」

 「うん。上ってい……」


 ――コッ、コッ。


 「!」


 おそらく階段の上から、下へと降りてくる足音が聞こえてきた。


 「一旦、隠れよう……!」


 マナトとラクトは階段の裏手の、小さな隙間に素早く飛び込んだ。


 ――コッ、コッ。


 足音が近づいてきた。やはり、階段を、誰かが降りてきている。


 「ウテナの身柄を、引き渡せと……」


 と同時に、声も聞こえてきた。


 「複数の公爵が言ってきてるのか?」

 「ああ」


 声から、2人の男と思われた。


 「ムスタファ公爵とアブド公爵が、それを止めている状態だが、時間の問題かもしれない」

 「あの、クサリクの大国の文献に、習おうっていうことか?」

 「かもな」

 「マジかよ」

 「さすがに同情するよ、ウテナに……」


 ……マナトが言っていたのと、同じことを。

 ラクトは思った。

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