227 ルナの妹の言葉/戦跡の市場

 ――ガバッ!


 ルナが寝台から跳ね起きた。


 「ハァ……ハァ……?」


 汗でぐっしょりと濡れている。


 部屋内には、やはり、ルナ一人。


 窓と扉を確認した。


 窓も扉も、開いたままで、風の通り道となっている。


 ルナは、その細い手で、自分の頬を触った。涙の跡が、しっかりと残っていた。


 「さっきのは……夢?」

 「お姉ちゃん起きた!」


 ルナの妹が部屋に入ってきた。もう、マナを取り込むのはやめて、と、兄妹の中でも一番、ルナのことを心配してくれている妹だった。


 「お姉ちゃん、大丈夫?どこか痛いの?」


 妹は机に置いてあったタオルを持って、汗でにじむルナの顔を優しく拭いた。


 「ありがとう。大丈夫よ」

 「でも、涙が……あと、すごい汗が……」

 「怖い夢、見てたから、あはは……」


 ルナは笑ってみせた。


 「そうなんだ、よかった~」


 妹が、言った。


 「てっきり、さっき入っていったお兄ちゃんに、意地悪なことされたのかなって」

 「……えっ」


 ルナの顔から、笑みが消えた。


 「お稽古中にね、コソッと、お姉ちゃんの部屋に行こうとしたの。結局、見つかっちゃって、行けなかったけど……でも、その時に、知らない黒髪のお兄ちゃんが、お姉ちゃんの、部屋に……」


 ルナの顔が、蒼白になっていった。


 「夢、じゃ、なかった……!」


     ※     ※     ※


 ワイルドグリフィンの襲撃から、数日が経った、朝。


 戦場となった大通りは、壁や道に穴が空いたりと、その傷痕が残っている中、通りには市場が開かれていた。


 「今日は、安くしとくよ!」

 「さあ、買った買った!」


 壊された皿の代わりに木の台の上に食材を置いたり、地べたに大きな布を敷いたり、皆それぞれ工夫しながら売っている。


 「おう、一杯くれよ、旦那」


 国門を守っている護衛の隊員が、市場でお酒の購入をしていた。


 「護衛じゃないか。朝っぱらから飲んじゃダメだろ~」


 酒売りの店主が言う。


 「俺はさっき、勤務が終わったんだよ!朝帰りだ、朝帰り!」

 「ははっ!分かってる。そう、怒るな。今回の戦いでの、論功行賞には預かるんだろう?」


 笑いながら、店主は護衛に酒を一杯、小さな器に移して渡した。


 グイッと、護衛は一気飲みした。


 「まあ、一応な。いま、隊長が行ってるよ」

 「よかったじゃないか」

 「ワイルドグリフィンの侵入を食い止めた、その恩賞ってヤツよ」

 「いや、侵入は、許しているだろう。それに、食い止めるほどの大した活躍もしてないじゃないか」

 「やかましい!」

 「はははっ!」


 護衛の怒声と、店主の陽気な笑い声が、市場に響いた。


 市場が、これまでの活気を取り戻している頃……。


 ウテナを含めた、フェンを中心としたキャラバンサロンは、公爵達が会議を行う、大きな宮殿の前に来ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る