8 キャラバンの村/ミト、最終試験②

 グリズリーは別の住居の外庭の、川魚を開いて干しているのを見つけ、それをムシャムシャ食べ始めた。


 ミトは更に歩を進める。


 干し魚を口に放り込んでいるグリズリーが一瞬、ピクっとなり、ミトの方に身体を向けた。


 お互いの眼が合った。


 ――グォォ……。


 グリズリーは前脚を下げ、四足歩行になると、うなり声をあげ始めた。黒茶色の毛並みが逆立ち、むき出しの牙と前脚の爪。完全に臨戦態勢である。


 そして、ミトに向かって一歩一歩、少しずつ、じりじりと距離を詰めてきた。


 「……んっ?」


 マナトは周りを見渡した。


 いつの間にか、グリズリーの出現で避難していた村人達が、ミトのキャラバン最終試験を聞きつけ、遠巻きに見物し始めていた。


 「おいおい、アイツ、やっぱりデカいぞ」


 「大丈夫なのか?ミトは」


 マナトだけでなく、護衛担当と伝達係の若者も、グリズリーとミトが対峙するのを見て、心配し出した。


 「まあまあ、見てなって」

 ラクトが言った。


 「アイツもちゃんと、この村で訓練を受けてきて、キャラバンとなるにふさわしい戦闘センスは持っているよ」


 ミトとグリズリーの距離がどんどん近づいていく。


 あと数歩でお互いの手が届くかという、危ない距離まで近寄ると、ミトは立ち止まり、右腰につけているダガーを両手で逆手持ちに握り、同時に、すぅ~っと、ゆっくり息を吸い始め、少し腰を落とした。


 その刹那、グリズリーが跳躍した。


 ――ブンっ!


 もの凄い早さで、ミト目がけて右前脚でなぎ払ってきた。


 ――ガッ!


 ミトに前脚が直撃し、その衝撃でミトは真横にふっ飛んだ。


 「キャぁ!!」

 遠巻きに見ていた観衆から悲鳴が上がった。


 ミトはくるっと受け身を取り、すっくと立ち上がって、また姿勢を低くとって、最初のようにすぅ〜と、ゆっくり息を吸った。


 ――ポタっ、ポタっ。


 グリズリーの前脚から、血が滴り落ちている。ミトのではない、グリズリー自身の血だった。


 ――グゥゥ……。


 グリズリーが、苦痛のうなり声をあげた。


 「さすが……!」

 ラクトが興奮した様子で言った。


 「うむ!お見事!」

 長老も拍手を送った。


 だが、他の取り巻き達は、ミトが攻撃を受けたものと思って、騒いでいた。


 マナト達のいる視点からは、よく見えていた。


 ミトは、グリズリーの跳躍からなぎ払いまでの一瞬に、両手で引き抜いたダガーで、右前脚をぷすりと刺していた。


 刺したことで鋭い爪を顔ギリギリのところでやり過ごし、後はあえてグリズリーの力に逆らわず、自らも吹き飛ぶほうに跳躍し、受け身を取って次に備えた。


 一瞬のやり取りを見て、マナトは驚愕した。


 自分と同じくらいの体格、年齢なのに、何て強いなんだ……。

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