438 貸倉庫へ向かう道中にて

 宿屋を出て、巨木のエリアと隣接する通りを、シュミットを先頭に、皆で、貸倉庫まで歩いてゆく。


 「……」


 マナトはターバンを深く被って、目だけ少し出して、周りが見えるようにしていた。


 「……んっ?」


 マナトの斜め前あたり、通りの端で井戸端会議中の婦人たちの目線が、シュミットを追っているのが見えた。


 「……」


 シュミットは婦人たちに気づくと、歩きながら合掌し、笑顔で、慇懃に婦人たちへ頭を下げた。


 「あら……」

 「ステキなお方ね……」

 「いったい、どこのお方かしら?」

 「どこかの国の、お偉いさんかしら」

 「でも、まだ、ぜんぜん、お若いみたいよ」

 「いいわねぇ……」


 婦人たちはその後、ほくほく顔で、シュミットを通り去る姿を目で追いながら、囁き合っていた。


 婦人たちだけではなく、道行く多くの人々は、一度は、シュミットに視線を注いでいる。


 「シュミットさん、めっちゃ、見られてるっすね」

 「モテモテだな~」


 リートとケントが言った。


 ……考えてみれば、シュミットさん、どう考えても、女性ウケがいいよね。

 マナトは思った。


 物腰柔らかそうな甘めのフェイスに、綺麗なパーマのかかった金髪な上、背が高く余分な肉のついていない、スラッとした体格に、きらびやかな外行きの服が、よく似合っている。


 清潔感に、高貴さがプラスされている。


 「いやぁ、あはは……」


 シュミットは苦笑すると、振り向いて、言った。


 「いやいや、これはある意味、当然のことというか、これは、岩石の村でよく言われていることですが……製作者も含めて、作品なのだと」

 「へぇ~」

 「なので、清潔感のある、自らに合った服装やクーフィーヤというのは、ちゃんとするようにしております」

 「あっ、分かるっす。自分に合った服装とか、大事っすよね」

 「そうなんですよ。割と難しいんですけどね」


 シュミットとリートが、歩きながら話を始めた。


 「製作者も含めて、作品か~」

 ケントが腕を組んで、関心した様子でうなずいている。


 「ターバンの感じ、どう?」


 ミトがマナトに聞いた。


 「うん、頭が意外と蒸れてないことに、ビックリしてる」

 「あはは、そこ?」

 「そうなんだよね。ターバン、初めて被ったから」


 実際、ターバンを被ったことで、やはり、声をかけられることはなくなっていた。


 とりあえず、見知らぬ人から話しかけられるドッペル現象は、回避できているようだ。


 「それにしても、まさか、見知らぬ人から話しかけられる現象が、ジンの仕業だったなんてね……」


 ミトが言い、マナトもうなずいた。


 「うん。でも、僕の姿に化けて、ラクトとウテナさんに危害を加えたということを考えると、どうしても、やるせなくて」


 やはり、それを考えると、マナトは、悔しかった。


 「そうだよね……」

 「ミトくん、マナトくん」


 リートが、2人に声をかけた。


 「あっ、はい、なんでしょう?」

 「キャラバンの村で、モテる男って、誰だと思うっすか?」

 「……えっ?」

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