437 宿屋にて

 リート、ケント、ミト、マナトの4人は、宿屋の一階に設けられている食堂で、食事をしていた。


 「モグモグ……とりあえず、今日で、キャラバンとしての任務は、完了っすね」

 「そうですね」

 「でも、サロン対抗戦に、出てますよね?……ムグムグ」


 マナトがムグムグさせながら、聞いた。


 「まだ、参加し続けるんですか?」

 「そりゃ出るだろ」

 「う~ん。ムハドに聞いてみないと、なんともっすね~」

 「それに、ラクトも負傷しちゃったしなぁ」

 「それも、ありますよね」


 すると、背後から声がした。


 「ご機嫌よう!皆さん」

 「んっ?……あっ、どうもどうも。こんにち……えっ?」


 振り向くと、光沢のある緑と紫に分けられた、両肩から金色の線の入った装束を纏ったシュミットが、立っていた。


 また、金髪の頭の上には、白無地の布に、黒のリングでとめたクーフィーヤを被っていた。


 ……完全に、どこかの貴族だ。

 マナトは思った。


 「おぉ!シュミットさん、納品前に、ガチ感ハンパねえな!」

 ケントが言った。


 「あはは。いや、恐縮です。ただ、クライアントに会う以上、最低限の身なりは、しておかないとといったところですよ」


 笑顔で、シュミットはお辞儀した。


 「皆さん、今日は、よろしくお願いいたします」


 いつものシュミットの丁寧な物言いも、どこか高貴な雰囲気が漂う。


 「よ、よろしくお願いします」


 反射的に、マナトもミトもお辞儀した。


 「ようやく、納品っすね、シュミットさん」

 リートが言った。


 「いやぁ、喜んでくれると、いいのですが。いつも、この納品前だけは、そわそわして、しょうがないんですよね」

 「あはは。ぜんぜん、そんな感じに見えないっすよ。自信満々に見えるっす」

 「そんなことないですよ。毎回、ものすごく緊張しますから」


 そう言いながらも、シュミットは口元に笑みを浮かべていた。


 「もうすぐ、手配していた馬車が、貸倉庫のほうに到着するかと思います」

 「おっ、了解っす。んじゃ、そろそろ、行くっすか」

 「あれ?ちょっと待ってください」


 席を立ったリートに、マナトは言った。


 「サーシャさんは?」

 「……」

 「……」

 「……えっ?」


 男5人、顔を見合わせた。


 「あれ?医療棟から戻って、準備しているんじゃないのか?」


 ケントが言うと、ミトが席を立って、サーシャ、また召し使いとニナの泊まっている個室へと向かった。


 だが、すぐに戻ってきた。


 「いないです」

 「マジかよ」

 「戻ってきてないって、ことっすね」

 「どうしましょう?」

 「とりあえず、貸倉庫にある作品は引き取ってしまいましょうか。その後、サーシャさまを、医療棟からお連れしましょう」

 「そうっすね」


 リートが言い、他の3人もうなずいた。

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