243 ラクトの追憶/交易の危惧

 「元気にしてっかなぁ……」


 肩掛けを見ながら、ラクトはつぶやいた。


 最初の交易で、共行して時間をともに過ごし、協力し合ったにも関わらず、別れを告げることの出来なかったメロのキャラバン、フィオナ商隊は、やはり特別な存在だった。


 しばらく、ラクトは壁に飾られてある肩掛けを眺めていた。


 前にラピスの交易で、岩石の村に行った時、彫刻にチャレンジした際、ウテナの彫刻をつくった。出来はかなり……アレなものだったが。


 「ジン=グールの騒動で、フィオナ商隊が未明の間にサライを発っていたから、急な別れになってしまったよね」


 ラクトの気持ちを察したのか、マナトが言った。


 「ああ、そうだな」

 「また、会えるよ」

 「おう。……なあ、マナト」


 ラクトはマナトを見た。


 「なんで長老は、いま、メロ共和国について調べてるんだ?」

 「……」


 するとマナトは立ち上がり、机の上に置いてあった書簡を持ってきた。


 「それは?」

 「半年前の、メロの国からキャラバンの村への交易依頼だよ。実は僕も、長老やリートさんに言われて、メロ共和国について、ちょっと、調べてたんだ」

 「おう、そうだったのか」

 「メロ共和国って、アクス王国に次ぐ第二の大国なんだよね」

 「そうだな」

 「交易に関してもアクス王国と似てて、基本的にキャラバンの村とは、村特産の生地を交易していることがほとんどだったんだけど……」


 マナトは書簡の文字を指差した。


 「ええと……火のマナ石か?」

 「そう。ここ一年、メロの国は、リートさん特製の、火のマナ石をたくさん取り引きしているんだよね」

 「あぁ、でも、それって、クルール地方にとって、火のマナ石は珍しいからじゃね?」

 「うん、それもあるけど……」


 マナトは意味ありげに、ラクトを見た。


 「メロの特産って、なにか、知ってる?」

 「いや、知らねえな」

 「大きな山から採掘できる、鉄鉱石なんだよ」

 「ふ~ん。それが?」

 「鉄鉱石に、火のマナ石、これで、鍛冶屋がいれば……」

 「あっ、武器がつくり放題?」

 「うん」


 マナトは真剣な顔になっていた。


 「僕の前にいた世界では、火のマナ石はなかったけど、代わりに石炭という、それこそ火のマナ石のように燃える石があった。それと、鉄鉱石で、武器をどんどんつくった。その先にあったものは、戦争だったんだよ、人間同士のね」

 「マジかよ……」

 「でも、長老もリートさんも、それを察していたみたい。途中からメロの国に火のマナ石の交易を差し止めていたんだ」

 「おう、さすが長老」

 「長老が交易に慎重なのは、そういった側面を考慮しているからじゃないかな」

 「う~ん、なるほどな」

 「フィオナ商隊、あの時、なにを交易していたんだろうね……」

 「……」


 マナトは立ち上がり、メロの国の書簡を机に戻した。


 「フィオナ商隊が悪いんじゃないよ。こういう時は、常に上から指示を出している人間がいるものだからさ」

 「……マナト、お前やっぱ、頭いいよな」

 「そんなことないさ。ちょっとばかし、前の世界の歴史について知っているだけだよ」

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