149 戦闘②/デザートランスコーピオン

 「おぉ!やるっすねぇ!マナトく~ん!」


 関心した様子で、リートはパチパチと拍手した。


 「マナト、お前いったい、何を……?」


 ラクトは素直に驚いていた。


 ……マナトがあんなに素早く、ケントさんのもとに?いや、ありえない。


 マナトはお世辞にも、身体能力が長けているとはいえない。


 アクス王国から帰還し、密かに村で修練に励んでいたようだが、日頃のマナトを見ていた限り、それでも、まだまだだとラクトは思っていた。


 「ミト、見えたか?」

 「いや、僕も、分からなかった……!」


 ミトもラクト同様、驚いていた。


 「水の能力の応用技なんだ」


 マナトは言うと、地面を指差した。


 見ると、細い線を描くように濡れている箇所がある。そして、その線は、マナトの足下から砂煙に入るような形で続いていた。


 どうやら、水の能力を利用した、緊急脱出方法をマナトは思い付いたらしい。


 「アメンボって、僕は呼んでるけど」

 「へぇ……」


 ……何だよ、おもしれえじゃねえか。


 友の成長に、嬉しい闘争本能をラクトは感じた。


 ――スゥ~。


 しばらくして、視界を遮る砂煙が、再び少しずつ、おさまってきた。


 「また、いない……」


 やはり、最初と同じで、痕跡ひとつ残っていない。


 「ケントさん、この生き物は?」

 「ひと昔前に、このクルール地方で猛威を奮っていた、デザートランスコーピオンっていう毒サソリだ」


 ケントが言うと、リートも口を開いた。


 「マナトくん、ヤツは敵の狙いを定めて、集中攻撃してくるっす。おそらくまた同じ攻撃が来るっすよ」

 「はい!」


 マナトが姿勢を低くする。


 ――シュルル……。


 「マナトの足に水が……!」

 ミトが言った。


 「!」


 マナトの足下に水流が溜まり、ちょうど足の裏全体を覆うように、ブヨブヨとうごめいていた。


 ――バシャァァ!!


 再び、砂が吹き上がる。鋏脚の先がもうマナトの身体を捕らえかける。


 ――ヒュンッ!!


 マナトが勢いよく跳躍した。


 「あっ、水圧で、自ら……!」


 足下に仕込んだ水の水圧に任せて自ら吹っ飛び、鋏脚を紙一重でかわした。


 ――シュルルルル!!

 細い水流が伸びる。


 マナトは、その細い水流の上に乗った。


 ――スィィイイイ!!


 水流は弧を描き、その上を、マナトがスピードに乗って滑走する。


 「すごい……!!」

 「水流をつたって……!」


 水流はぐるっと一周し、砂煙に紛れようとする鋏脚へとマナトを導いていた。


 「お返しだ……!」


 マナトがダガーを構えた。


 「そのまま攻撃に転じる気だ!」

 「いけるぞマナト!!」


 マナトのほうが速い。鋏脚目掛けてダガーを振りかぶった。


 「てぇぇい!」


 ――カッキョォォン。


 ものすごく、ダサい音がした。


 「はっ?」

 「へっ?」


 息をのんで見ていたミトもラクトも、思わず拍子抜けした声が出てしまった。


 「あぁ~やっぱ剣術はダメダメだ~!」


 マナトは情けなく叫びながら、鋏脚を通り過ぎて、水流を解いて地面に着いた。


 ――ジャキッ!!


 マナトの失敗した一撃を、敵と察知したか、鋏脚は空を鋏んだ。


 「大丈夫だ!よくやったマナト!」


 砂煙の中から、ケントの声。


 「隠れてないで出てこいよ!!!!」


 ――ギンッ!!!!!


 金属と金属の激しくぶつかる音が聞こえた。


 はるか頭上、砂煙の中を突き抜けて、巨大な鋏脚と、長く鋭い尾針を持つ化け物が姿を現した。

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