349 ナジームとアイーダ/立食
すると、フェンのもとへ、受付を終えたサロンリーダーの、ナジームとアイーダがやって来た。
ナジームは、商人騎士風の男で、肩から足元まである白装束に、腰に光沢のある緑色の布ベルトを巻き、頭にターバンを深々と巻いていて、目が半分、隠れている。
アイーダは、明るい茶色のウェーブのかかった長い髪の毛に、ネイビー色の胸当てと腰巻きに、その上から薄い透明な紫の肩掛けを羽織った、踊り子風の格好をした長身の女だった。
いずれも、今回の交易報酬競争において、フェンのサロンと優勝争いを繰り広げていた。
「……もしかして、あなた達のサロンも、階級はアジーム・アーダなの?」
信じられないといった表情で、アイーダはフェンに言った。
「ああ、そうだね」
「それじゃ、アーリのサロンはどこなの?」
「いや、分からないけど……」
サロン大会中に配られた紙には、自分たちのサロンの階級は書いていたが、他のサロンの階級は書いていなかった。そのため、他のサロンがどの階級か、分かっていなかった。
「おそらくだけど、」
フェンが、アイーダへ言った。
「近々の、各サロンの交易報酬の成果が、反映されていないのだろう」
「なるほどね。……まあ、いいわ」
アイーダはかなりの長身で、フェンを見下ろしている。
「フェン、最近、サロンの調子いいみたいだけど、ごめんなさいね。今回の対抗戦、勝たせてもらうわ」
「……」
「それじゃあね」
アイーダは自らのサロンに戻っていった。
「原因は、おそらく、それだけじゃない」
ナジームが、ターバンの奥にある目を、フェンに向けながら言った。
「あの、アブドという公爵が関わっていることを、忘れてはいけない」
「それは、一応、俺も気にしている」
「フッ、それなら、いい」
ナジームは、フェンに背を向けた。
「まあ、もし当たったら、お手柔らかに」
「……」
後ろ背中で手を振りつつ、ナジームも自らのサロンへと戻っていった。
その後、フェンのサロンも、対抗戦の受付を済ませた。
「そんじゃ、俺たちも食おうぜ」
オルハンが、ほどよく焼けた肉を取って、かぶりついた。
「私たちも」
「いただきま~す!」
「ところで、次の交易って……」
「知ってます?新しくできたサロンで……」
他のメンバーも、思い思い、食べ始め、談笑もすぐに始まった。
「……」
しばし、その光景をウテナは眺めていた。
「……んっ?」
フィオナが、料理に手を伸ばさないウテナに気づいた。
「ウテナ?どうしたの?」
「あっ、いや……」
ウテナは少し、フッと、微笑んだ。
「すみません、ちょっと、らしくないですよね」
「ルナのこと?」
「あぁ、まあ、それもあるんですけど。……不思議だなって」
「不思議って……なにが?」
ウテナは、楽しそうに食事をしている、サロンのみんなを見ながら、言った。
「この国にいま、ジンが潜伏してる。本来なら、それどころじゃないはずなのに、でも、いま、目の前にあるのは、いつもの光景。楽しい日々……」
「そういうもんだと思うぞ、ウテナ」
いつの間にか、オルハンが、肉をガツガツ食べながら、ウテナの横に立っていた。
「考えてもしょうがねえよ。公爵とか、対策してるヤツらに、任せとけよ」
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