457 無法者VS護衛隊長

 ――シャキッ……。


 「……」


 一歩前にいる隊長を除いて、護衛たちは皆、無言で武器に手をかけた。長剣や双剣、ボウガンなど、それぞれ構える。


 ――バッ!


 男が、灰色のマントを脱ぎ捨てた。


 「……」


 肩から足元まである、長袖の、黒地の上に肩や裾などに白の細いラインが入っている装束を身につけ、腰には、光沢のある緑の布ベルトを腰に巻いている。


 いわゆる、商人騎士風の身なり。


 「キャラバンに多い服装っすね」

 「ですね。オーソドックスな商人騎士だ」


 リートとケントが、男を見ながら話し始めた。


 「話している感じ、他の地方のキャラバンってとこっすかね」

 「そうっすね」

 「護衛たち、激おこプンプンしてるっすね」

 「あはは!ですね。クルールの護衛みんなを敵に回しそうな発言でしたもんね」

 「まあ、実際、クルール地方は、平和なほうっすよね~」

 「アイツ、どこの地方ですかね?リートさん」

 「彼が、どこの地方か……ひと勝負いきます?」

 「あっ、いいっすね!久しぶりに賭けますか!」

 「そんじゃ、負けたほうが、大通りの市場で売ってた、美味しそうなフルーツティー、一杯!」

 「その賭けのったぜ!」


 ……めっちゃ、楽しんでいらっしゃる。


 リートとケントが楽しそうに、やれムシュフだの、やれラハムだのと、キャッキャ話しているのを聞きながら、マナトは思った。


 「でも、マナト」

 「えっ?」

 「あの人、武器持ってないよ」

 「あっ、たしかに」


 ミトが言うように、男の姿を見る限り、腰にダガーはつけておらず、弓もボウガンも所持していない。


 「やめろ!国内だぞ!挑発に乗るな!」


 前にいる隊長が後ろを向いて、注意した。


 「彼は、武器を持っていないんだぞ!」


 護衛隊長もそのことに気づいて、護衛たちに武器を下げるように説得している。


 「暴力はいけない。あくまで、話し合いで解決を……」

 「……」


 ――フッ。


 男が動いた。後ろに目線がいきがちな護衛隊長に襲いかかった。


 「だから、平和ボケしてるって……」


 ――シャキッ!


 「!」


 護衛隊長が、咄嗟に腰につけていた長剣を抜いた。


 「あ、あの護衛隊長……!」

 「うん、あの人の動きを読んでいたね……!」


 護衛隊長の俊敏な動きに、ミトもマナトも驚いた。


 男が襲いかかるよりも、護衛隊長の長剣の構えのほうが速い。


 「かかってくるなら容赦はしない!!」


 隊長の素早い振り上げからの一撃。刃の切っ先が、男を捉える。


 「おう、やるやん」


 ――スァ……。


 「!?わ、私の一閃が……!?」


 ――ドッッ!!


 「ぅぐ……!?」


 護衛隊長を、男が蹴り飛ばしていた。


 ――ドサッ!ゴロゴロ……!


 蹴られた衝撃で地面を転がる。


 「えっ!?」

 「なにが……!?」


 マナトもミトも、いや、見ていた全員、護衛隊長の一閃が完璧に決まったかと思った。


 しかし、男は、無傷。


 「残念やったな」


 すると、護衛たちに向かって、男は左手を上向きにつき出し、クイクイと手招きした。


 男の左手には、中指と小指に、指輪がはめられている。


 「他におらんのか?」

 「!!」


 前方のほうにいた護衛が動いた。

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