456 無法者

 「あらら、トラブルですか」

 「……たしかに、なんか、言い合いしてる声、聞こえてきてますね」


 前方で停車している馬車があるため見えないが、その向こう側から、口論をしているような複数の声が聞こえてくる。


 周りは、緑豊かな景観。


 巨木エリアの一角で、馬車は停止してしまっている。


 「おう、なんだなんだ?」

 「倒木っすかね?」


 すると、ケント、リートの2人も降りてきて、馬車の前へと歩を進めていった。


 「ちょっと、見てきますね。ニナさんと召し使いさんは、サーシャさんを、見ててください」

 「分かった~!」

 「は、はい」


 マナトは馬車の中にいる2人に言うと、ミトと一緒に前方に向かった。


 巨木エリアは、馬車が走るために、巨木と巨木の間を縫うようにして、平たい石で舗装された道が張り巡らされている。


 「……あっ」

 「護衛のみんなだ」


 その、馬車の導線をふさぐようなかたちで、護衛たちが10人ほど、立っていた。


 「おい君!いい加減にしないか!」


 護衛たちの先に、誰かいる。マナトとミトは背伸びした。


 旅の装いをしている男が1人、見えた。


 「この国に入るためには、今は、誰一人もれなく、やっていることだ!」

 「はっ!何度言われても、俺はやらんぞぉ?」


 男が、言い返した。男にしては少し高めの、耳に残る特徴的な声をしている。


 ついでに語尾には、護衛たちに対し、若干のあおり感が漂っていた。


 歳はマナトと同じか、少し上くらい。


 黒色の、リートのようなパーマ風の巻き毛に、濃い紫色の瞳をした、目尻が垂れている少し離れ気味の両目が、護衛たちを睨み付けている。


 少し大きめな口は、護衛たちをバカにしたように、ほくそ笑んでいる。


 入国したばかりだろうか、膝下まである灰色のマントを纏っている。


 「うぃっす~」

 「……んっ?あぁ、君はキャラバンの……」


 一番後方にいた、顔見知りになった護衛に、リートが声をかけた。


 「どうしたんすか?」

 「あぁ、あの男、いまさっき、入国して来たんだが、入国の際に行う血の確認をすり抜けたんだ」

 「あちゃ~、無法者じゃないすか」

 「とんだアウトローだよ。すぐに気づいて、護衛で追いかけて、いま、といった状況だ」

 「なるほどっすね~」


 リートが振り向いた。


 「まあ、ちょっち、見守るとしますか」


 と、護衛たちの中から、一人出てきた。


 「すまないが、理解してほしい。いま、この国はジンの恐怖が渦巻き始めているんだ」


 落ち着いた口調で説得を始める。おそらく隊長だろう。


 「君がジンだと疑っているわけではないが……」

 「……くははっ!」


 男が笑いだした。


 「しょ~もな!」


 ……ちょっと、おなまりが。

 マナトは思った。


 前の世界でいえば、関西弁といったところ。


 「知ってるよ、ジンの噂ぐらい。たかがジン一体に、どんだけビビっとんねん!」

 「な、なんだと……!」


 男の煽りに、後ろにいた護衛たちが殺気だった。


 「悔しかったら、傷つけてみろや。クルールの平和ボケした護衛さんたちよぉ~」


 その殺気の炎に、男が油を注いだ。

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