467 転生者

 皆を乗せた2台の馬車が、再び、走り出した。


 「体調はどうですか?」


 後方を走る馬車の中、マナトはサーシャに言った。


 「ええ、大丈夫」


 ……見た感じ、落ち込んだりは、してないかな?


 サーシャの顔色を見ながら、マナトは思った。


 「はぁ……ホント、よかったですわ……」


 サーシャが無事だったことに安心してか、召し使いは、少し涙ぐんでいる。


 「ねえねえ、マナトお兄ちゃん、ミトお兄ちゃん、外でなにがあったの?」

 「あぁ、なんか、新しい入国者が、国門での血の確認を拒否したみたいで……」


 マナトは、先の出来事を簡単に説明した。


 「それで、ミトが、そのユスフって人と、戦ってくれたんですよ」

 「へぇ!」

 「さすがですわ、ミトさん」

 「あはは……」


 ニナと召し使いの反応に、ミトは照れている。


 「……そうだったのね。ありがとう、ミト」

 サーシャも言った。


 「いえいえ。サーシャさんも意識戻って、よかったですよ」

 「ありがとう」


 ミトに礼を言うと、サーシャはマナトのほうに向いた。


 「……」


 琥珀色の瞳。じっと、マナトを見つめている。


 少し血色が戻った淡いピンク色の、薄化粧をしたその顔は、ただただ、美しい。ただ、なにを考えているのか、マナトには、まったく分からなかった。


 馬車の中、ちょっと、沈黙が続く。


 「……?」


 その沈黙によって、ニナと召し使い、またミトも、サーシャとマナトの間の微妙な空気感を感じ取ったようで、お互い、目配せし始めている。


 「……」


 マナトは息が詰まりそうになった。


 ……も、もう限界だぁぁ。


 「あ、あのぉぉ、すみません、サーシャさ……」

 「マナト、あなた、日本人でしょ?」

 「!!」


 サーシャの口から、日本人という言葉。


 マナトは仰天した。


 「……合ってる?」

 「あっ!あ、合ってます!そうです!」

 「やっぱり。そうよね」


 サーシャは少し表情をやわらげつつも、マナトを見つめ続けつつ、言葉を次いだ。


 「マナト、あなたって、いわゆる、日本人そのまんまのイメージだものね。スクールで習った印象、そのまんま」

 「……」

 「礼儀正しくて、勤勉。ついでに言うと、わりと自責型。自分ではどうしようもないようなことまで、背負ってしまう」

 「えっと、……すみません」

 「あっ、あと、すみませんって、よく言う」

 「……」

 「……ウフフ、言っとくけど、誉めてるのよ?」


 すると、サーシャはちょっと、眉間にしわを寄せた。


 「……やっぱり、ラクトがはじまりの草原であなたについて話したことは、ものすごいデタラメだったのね」

 「……」


 ……というか、やっぱり!!


 「サーシャさん!と、ということは、あなたも……!」

 「……ええ、そうね」


 サーシャはうなずいた。


 「く、国は……!?」

 「ドイツよ。ガルベンハイム」

 「ガルベンハイム……!」


 ……どこだ、分からん。いや、そんなことより!


 「じゃあ、やっぱり、僕と同じ、地球から、こちらの世界に……!」

 「……いえ、違うわ。同じところから来たけど、大きく、違う。私はそう思う」

 「?」

 「私の肉体は、その細胞、遺伝子ひとつひとつまで、このヤスリブのものよ。私は、一度、死んでいるの」

 「あっ」

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