371 2人の水の能力者⑤/戦局の行方

 ムスタファや諜報員の調査によれば、ジンは現在、アブドが遭遇した者とは別の人物に化けているとのことだった。


 少々、住民の混乱が、あったらしい。現在は落ち着いている。


 ……あの者がジンであったとして、ここで倒すことは……いや、さすがに難しいか。まだ、準備が整っていない。


 アブドは考えていた。


 ……もしくは、あの者がジンでなかったとして……その時はその時で、重要参考人として、彼に対し、ムスタファは接見を望むだろう。


 以前、ステージ内では、2人の水を操る能力者による戦いが、繰り広げられている。


 ……ひとまずは、目の前の戦いを注視しているしかないだろう。


 水の斧を持った男が、再び、雄叫びとともに切りかかっていた。


 ――ジジジジ……!!


 水圧を極限まで上げて、鉄すらも切り落とすほどな切れ味となった水の斧が振り回される。


 横に縦に斜めに、突進しながら連続斬撃。水しぶきの残像がどんどん増えてゆく。


 ――バシュッ!


 対峙する例の男が、まるで足元にバネでもついているかのように瞬間的に動いた。


 ――スィィイイイ!!


 そして、水の導線に導かれるままに、高速移動で斧の斬撃を回避。


 ……まるで、別の能力のようだな。


 同じ水を操る能力者でも、それぞれの性格や修練の違いのせいか、まったく違う能力のように見える。


 片方が水の斧で攻めに徹し、もう片方は回避に徹している。


 「し、しかし、このままでは、決着はつかないのでは……」


 アブドの近くにいた執事が言った、その時だった。


 「……いや」

 「!」

 「どうやら、戦局が、動いたようだな」


 水の斧を振り回している男のほうの動きが、鈍くなったように見えた。少し、息切れもしているようだ。


 「!?血が……!」


 男の胸のあたり、服の上から、じわりと血が滲んでいるのが、見えた。


 ――おぉ~!?


 観衆もざわつく。


 「そんな……いつ、傷をつけたんだ?」


 執事の疑問に、アブドは首を横に振った。


 「いや、あの水流に乗って、回避に徹している側の男は、戦いが始まってから一度も、ダガーを抜いておらん」

 「では、いったい?」

 「おそらく、事前に負っていた傷跡が、戦いで開いてしまったのだろう」

 「な、なるほど」


 水の斧を持った男が立ち止まる。


 「……あぁ、あの若者、思い出したぞ」


 アブドが言った。


 「ワイルドグリフィン撃退における論功行賞にいた者だ」

 「ええ。オルハンという者ですね」

 「ふむ。では、あの、やたらと強い娘がいるキャラバンサロンの者ということか」

 「そうですね。ウテナと同じサロンの者です」


 オルハンが、胸を押さえている。


 「しかし……勝負、あったようだな」


 アブドの言うように、もう安全と判断したか、例の男が、水流を滑走し、ステージに降り立った。

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