93 砂漠を歩きながら②

 キャラバンの使命は、交易し、その物品を村に持ち帰るところにある。


 自分達の帰りを待っている、村のみんながいる。


 ……僕も、気持ち、切り替えなきゃ!


 マナトはパンパン!と、自分の頬を叩いた。


 「うぉっ!?どうした?」


 隣を歩いていたケントが、ビックリしてマナトを見た。


 「いえ、なんでも!ラクトと位置、変わってきます!」


 気持ちも、歩いている方向に向けようと、マナトは決意した。


 「ラクト」


 最後方まで下がり、そこで歩いていたラクトに声をかけた。


 「……おう」

 「場所、変わろう?前、歩いたほうが、何となく、元気出ると思う。ほら、前に、ミトもいるし」

 「んっ……分かった」


 前を歩いたほうが元気が出ることは、はっきり言って、ない。だがラクトは、あえてそれにノッてくれたようだ。


 「サンキューな」


 なにか察したように、ラクトはマナトに礼を言うと、小走りに前へと進んだ。


 「おりゃっ!」


 そして、さらに前を歩くミトに、後ろから不意に飛びついた。


 「うわっ!どうしたの!?」

 「へへへっ、場所、変わろうぜ?」

 「えっ、なんでよ?」

 「なんでもだ!」


 少しの間、ミトとラクトはじゃれ合っていた。そして、少し、ラクトの元気は戻ったようだ。


 その後も、ひたすらに、商隊は歩き続ける。


 帰り道ではあるが、もと来た道とはすでに違う方向に進んでいた。西のサライから、キャラバンの村への最短距離である。


 どこをどう歩いているか、まだマナトはピンと来ていなかった。


 日が、傾き始めた。歩く皆の影が伸びる。


 目の前に、大きな岩が見えた。


 「おっし!あそこで一旦、休憩するぞ!」


 大きな岩の下に、商隊は一度止まって、休息を取った。


 「今って、どのあたりですか?」


 水壷から水をコップへと注ぎ、皆に分け与えながら、マナトはケントに聞いた。


 ミトもラクトも、気になっている様子だった。


 「いま、右手にサライを越えているところだ」

 「あっ、最初に泊まったとこですか」

 「ああ、そうだ」


 ……そこで、彼女達と初めて出会って……いや、もう、やめよう!


 マナトは首をふった。


 すると、ラクトが手をあげた。


 「ケントさん、今日はどこまで進むんすか?」

 「もう少し、進む。そしたら、野宿だ」

 「おぉ……」

 「野宿……」

 「やるとは思ってたが、やはり……」


 野宿……なかなかのパワーワード。マナトだけでなく、ミト、ラクトもまた、少し引き気味だった。


 「フフッ、いい野宿場所があるんだよ」


 ……いい、野宿場所って。


 「それって、どういう……」

 「行けば分かるさ」

 「でも、ジンの出現、大丈夫なのでしょうか……?」


 ミトが、心配そうに言った。


 「それな。正直、分からない。だから、交代で番は行うことにする」


 日が暮れると同時に、再び商隊は前進を開始した。


 日の光の代わりに、いまは、満点の星空が、砂漠に降り注いでいた。


 星の光を遮るものはなく、歩く皆の表情も、ラクダの表情も分かるくらいだった。


 そして、夜の砂漠を歩き続けた。


 「着いたぜ」


 ケントの指差す先、不意に、その場所は現れた。


 ……オアシスだ!!

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