94 オアシス

 砂漠に突如現れた、小さな湖。


 星の光が降り注ぎ、その水面はキラキラと輝いている。


 その湖を周りを囲む、緑豊かな土地。広さは大体、中規模な公園くらい。


 枝葉の多いヤシのような、高く太い幹を持つ木が2本、湖から少し離れた場所に生えていた。


 その長く伸びた枝葉は、まるで垂れ桜のように、周りを優しく包み込み、安息の地を自然に作り出していた。


 「綺麗……」

 「すげぇ……」


 ミト、ラクトは、感動した様子で、目の前に広がるオアシスを眺めていた。


 「フフン。だろ?」


 ……これって、つまり……?


 マナトは、ミトとラクトの反応に満足しているケントのほうを向いた。


 「これも、マナの力って、ことなんでしょうか?」

 「だろうな。生命のあるところに、マナはあるって、言われてるからな。ここの地下深くに、あるんだろう」


 ……ほんと、マナって、いったい、何なんだろうか。


 ケントは、大きな垂れヤシの木を指差した。


 「手前にある木の下に、ラクダ達、そんで、奥のほうで、俺たちは休むことにする」


 マナトはラクダ達を木の下に誘導した。


 無数の枝葉に覆われた木の下は、屋内でいるかのような安心感と、多少、寒さも軽減されているように感じた。


 無論、ラクダは寒さにも暑さにも強いので、問題はないが、それでも居心地よさそうに、皆、脚を折り曲げてお休みモードに入っていた。


 「ちょっと、今日だけ、ガマンしてね」


 荷を積んだままのラクダ達に、マナトは言った。


 いつ、何が起こっても大丈夫なように、ラクダ達に荷は取り付けたままだ。


 自分達の寝袋だけ、マナトは取り外した。


 もう一つの垂れヤシの木の下に行き、寝袋を広げる。


 「マナト~!」


 ラクトの声がして、そちらのほうを向くと、手に網を持った裸足のラクトが、嬉しそうに手を振っていた。


 網の中に、大きな魚がピチピチとはねている。


 「あっ!魚とってたんだ!」


 マナトがいろいろと準備をしている間に、湖に入って魚をとってくれていた。


 ……さすがすぎる、ラクト。


 いつもは風呂沸かせに用いる火のマナ石を取りだして、小さな焚き火をして魚を焼いた。


 焼き魚の香ばしい匂いが広がる。


 「うん、いい感じ」

 「いいねいいね~」


 ミトとラクトが楽しそうに魚をひっくり返し、焼く面を変えていた。


 「ケントさん、寝ずの番の、順番、どうし……」


 マナトがケントのほうを向いたときだった。


 垂れヤシの木の根の部分、焚き火の炎に反射した2つの目が、こちらを見ていることに、マナトは気づいた。


 「おう。そんじゃあ……」

 「ちょっと!木のほう見てください!」

 「なに!?敵か!」

 「あっ、いや、違うと思います」


 ――ニャ~。


 かわいらしい鳴き声が響いた。

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