100 マナトの家①
まだ朝の日差しで影の伸びている、人通りも少ない村の中央広場を、ラクトは駆け足で通り抜けた。
石造りの住宅街のエリアへ勢いよく乗り込む。
……あともうちょいだな。よし!
ラクトはスピードに乗った。
もともと砂と岩だけだったところを、石でキレイに整備、舗装して造り上げたという、この住宅街。
この辺りには、マナトだけでなく、多くの村の住民が住んでいる。
砂漠から風が吹くと、砂塵に悩まされることもたまにあるが、虫や、獰猛種のいる密林から遠く、安全ということもあって、村人からも人気のエリアだった。
そんな住宅街を、ラクトは一気に駆け抜ける。
マナトの家は、エリアの中でもかなり端のほうに位置していて、村の中央の広場から徒歩でいけばおよそ10分ほどはかかってしまう距離だった。
だが、スピードに乗ったラクトの足だと、1分もかかることなく、マナトの家の前まで来た。
白色、灰色、茶色がかった色の、様々な大きさの石を接着しながら積み上げたその家は、他の家より、ひと回り、いや、ふた回り以上小柄だった。
完全に、一人暮らし専用だ。
アーチ状に作られた入り口には、木の扉がつけられ、更に、マナト自身で改造でもしたのか、その扉の上下にも、追加で木の板が貼られ、中を完全に見られないようにしていた。
――トントン。
「マナト~」
ラクトはマナトを呼んだ。
少し待ったが、返事がない。
「マナト~!」
――キィィィ。
扉が開いた。
「……早くない?まだ、朝の7時だよ?」
寝癖で、髪の毛がぴょんぴょんしている。
目が半分までしか空いておらず、完全に寝起き状態のマナトが出てきた。
「7時は、俺んちからすると、早くないぜ」
「あぁ、そう……ちょっと、待って」
パタンと、扉が閉まった。そして、ガサゴソ、バサバサと扉越しに音がした後、改めてマナトが出てきた。
「お待たせ。中に入って」
ラクトはマナトの家に入った。
中も至ってシンプル。間取りは、ズバリ、一部屋。そんなに広くない空間の居間に、扉入って正面左から、台所、砂式トイレに、風呂場と順番に設置されている。
そして、部屋の隅っこに、就寝用の台、そして、机。
さながら、ミニサライといったところだ。
部屋としては、お世辞にもいいものとは言えない。
それでも、マナトは、「えっ!?ここに!?タダで!?」とか、「土地の所有とかってどういう……」とか、「大工費用も含めたら……」とか、うんたらかんたら言っていた。
どうやらマナトのいた世界では、家に住むにはいろいろな条件があるらしかった。
そんなもん、この村にはない。あるのはひとつ、長老の許可のみ。
長老が住んでいいといえば、勝手に住居も手配される。
ラクトはマナトの家にあがると、靴を脱いで床に敷いている絨毯に座り込んだ。絨毯の上は靴を脱ぐように。これは、マナトから言われたことだ。
「朝ごはん、食べた?」
マナトは台所で顔を洗うと、ラクトに言った。
「いや、まだ食ってねえ」
「あっ、じゃあ、作るよ」
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