528 剣舞/異変、迫るジェラード

 ――タタッ!


 相手の軽やかなステップイン。そのまま前進、踏み込み、レイピアの突きでジェラードを攻撃。


 ジェラードより小柄な分、スピードは、アイーダサロンのメンバーのほうがジェラードより幾分か速く見える。


 まさに舞いを舞う中で攻撃を繰り出す、見栄えも美しい剣舞。


 「……」


 それをジェラードは回避しつつ、反撃の機会を見極めようとしているようにマナトには思えた。


 ――タッ!


 と、相手が足を交差した。


 ――シュッッ!


 「!」


 ジェラードの目が見開いた。


 先よりも早いタイミングで、レイピアの刃が飛び出す。ステップインによって、攻撃のタイミングが変わっている。


 ジェラードが大きく跳躍。距離を取る。


 「とああ!!」


 今が勝機と見たか、相手が追い討ちをかけに地面を蹴った。


 ――んのおぉ~!!


 男たちの歓声が、ステージに向けてこだました。


 「お相手さん、絶好調って感じだな」

 ケントが言った。


 「だ、大丈夫ですかねジェラードさん……!」

 「分からん。だけど、お相手さん、ジェラードさんの覇気にのまれているようにも、俺には見える」

 「えっ!」

 「攻撃しているというより、攻撃させられているようだ」

 「ジェラードさんに?」

 「ああ」

 「あっ!」


 ケントとマナトが話していると、ジェラードが相手を迎え撃つ体制に変わった。


 ――ブンッ!


 初めてジェラードが反撃。左パンチ。


 「ドンピシャなタイミング!!」

 「おぉ!!」


 ――スァッ!


 腕とレイピアが交差する。


 相手が身体を反らしてジェラードの攻撃を避けながらも、片足立ち状態でレイピアを突き出していた。攻撃と回避を同時に行う動き。


 「むっ!」


 咄嗟にジェラードは体制を無理矢理崩してレイピアを回避し、受け身を取った。


 「体制崩したと思ったのに……!」

 「体幹すげえな、あのコ……!」


 相手のカウンター攻撃をなんとか回避し、ジェラードは立ち上がった。


 「ふぅ……2分半か」


 そして、大きく息を吐き、つぶやいた。


 「マジか……気づかなかった……!」


 ケントがなにか気がついたように声を漏らした。


 「ケントさん?」

 「ジェラードさん、能力使ってやがった……!」

 「!!」


 ……そ、そうだった。ジェラードさん、どこかのマナを取り込んだ能力者だった。


 「……んなっ!?」


 ――ガクッ。


 相手の、アイーダサロンメンバーの膝が落ちた。


 「どうしたの!?」


 ステージ下で見守っていた、サロンリーダーのアイーダが叫んだ。


 「わ、分かりません……か、身体が、動かない……!」


 アイーダサロンのメンバーは、両手もついて四つん這いになった。身体が、思うように動かせないようになっているようだ。


 ジェラードが、ゆっくりと歩き出した。


 「ふぅ……それにしても……、」


 歩くジェラードの口の両端が、上がる。


 目も細くなり、なにか愛でるような眼差しが、相手を舐めるように眺めている。


 「キミ、かわいいねぇ……」

 「!?」

 

 低い、ダンディーな声が、ステージに響くとともに、ジェラードが、迫る。


 ……あぁ、なんかヤバい!!

 マナトは思った。


 「け、ケントさん、あれ、ヤバくないですか!?なんか、ジェラードさん、やらかしそう!!」

 「あ、あれは、ヤバいかもしれない……!」


 ケントの顔も引いている。


 「あれ!!いつかの交易のときの、服脱いだ時のジェラードさんの顔ですよね!?!?」


 ラクトも気づいて叫んだ。


 「ちょ!!ジェラードさんなにを!!」

 「逃げて~!!アイーダサロンの人~!!!」

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