89 ?????①

 ……ジン=グールみたいなのもいるのか。


 マナトは筆を走らせた。


 ……あんなのがこの世界に存在している以上、やはり人々が、ジンを忌み嫌っているのも仕方のないことだろう……そういえば、ジン=マリードとの関係性はどう……なんだろう?


 少しまどろみながらも、マナトは筆を走らせ続けた。


 「おいおい、マナト、大丈夫か?」

 「まぶた、だいぶ重そうだよ?」


 ラクトとミトが声をかけた。


 「大丈夫、大丈夫」


 ……あっ、でも、確か、ジンは本来……ジン同士は不干渉とかどうとか……ダメだ、眠いなぁ~。


 ラクトとマナトに言ったものの、やはり疲れているのか、意識が朦朧として、自分でもコクリコクリしているのが分かる。


 ……とりあえず、村に帰ったら長老にいろいろ聞いてみよう。


 「……ふぅ~」


 マナトは筆を置いた。一旦、眠気を断ち切ろうと、立ち上がった。


 ――コン、コン。


 誰かが扉を叩いている。


 「はい……って、あれ?」


 さっきまで地べたに座っていたミトとラクトが、いない。ミトの、薬作りの途中のすり鉢とすりこぎ棒が置かれているのみだった。


 「結構、まどろんでたかな……」


 マナトは扉を開いた。


 「……誰もいない。……んっ?」


 回廊の外、中庭のほう、焚き火の炎が徐々に小さくなってきている中で、一人の人影が見えた。


 そのシルエットは、恰幅のよい男性を伺わせるもので、ケント商隊にもフィオナ商隊にも、その体型をしている者はいなかった。


 そして、上を向いているようだ。


 ……管理人かな?


 マナトは回廊のアーチをくぐり、中庭へ出た。


 「呼びましたでしょうか?」


 声をかけると、人影が振り向いた。


 「なっ!!」


 アクス王国の料亭の亭主……ジン=マリードだった。マナト達と戦ったときと同じ、丸メガネに、ヒマワリ色の割烹着を着て、濃い緑色の前掛けは、膨らんだお腹の下にずり落ちている。


 ……う、動けない。


 料亭内で、初めてジン=マリードと相対したときと同じだった。金縛りに会ったかのように、マナトの身体は硬直した。


 ……そ、そんな……契約は守っているハズなのに、なぜ……。


 「……」


 ジン=マリードは無言のまま、いつものニコニコ顔で、マナトを見つめている。


 「あっ……」

 マナトは気づいた。


 丸メガネの奥の目が、死闘の後に、塵となって消える際、最後の最後に見せた、あの優しい目だった。


 恐怖が少しずつ、和らいでゆく。


 「……」

 「……亭主」


 無言のまま、笑顔でマナトを見てたたずむジン=マリードに向かって、マナトは震える声を絞り出した。


 「ジンとは、何者なのでしょうか?」

 「……」

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