340 キャラバンサロン大会⑤/大通り横の路地にて

 渡された紙には、自分たちのサロンの階級に加えて、階級の位置、それぞれの階級の交易範囲が書かれていた。


 「ええと、一番上がアジーム・アーリで、一番下が、ダーイフ・ムンハって階級か」


 紙を見ながら、フェンが言った。


 「俺たちは!?」


 オルハンがすぐに反応した。


 「おい、俺たちの階級はング……!」


 ライラがオルハンの口を塞ぎながら、紙に食いつく。


 「アクス王国に交易行けるのってどこの……!」

 「み、皆さま、落ち着きください」


 フェンたちを見守っていた執事が、ライラとオルハンをなだめつつ、言葉を次いだ。


 「今回制定された階級は、大きく3つに分かれておりまして、上からアーリ、アーダ、ムンハ。その大枠の中に、上位としてのアジームと、下位としてのダーイフで、合わせて9つある階級になります」

 「なるほど」

 「中の中が、アーダということね」


 フィオナが言うと、執事がうなずいた。


 「つまりアジーム・アーダは、9つある階級のうち、4番目に位置しています」

 「中の上って、ことになるのね」

 「そうですね」

 「ちょっと待って!」


 ライラが執事に詰め寄る。


 「アクス王国に行ける階級は、どこからなの?」

 「あ、アクス王国ですか?」

 「そうよ!」

 「ちょっと、紙を……」


 執事がフェンの持つ紙に、目線を落とす。


 「……あのぉ、アーリの階級からしか、アクス王国への交易は許されていないですね」

 「な、なんですって!?」


     ※     ※     ※


 巨木の点在するエリアにて、キャラバンサロン大会が開催されているさなか。


 大通りから、一歩横道に入った、昼でも陽のあたらない、細く、薄暗い路地。


 そこを、護衛の男数人が歩いていた。


 「……イヤな仕事だよな、血の確認って」

 「……ああ」


 後ろを歩いている2人の会話が聞こえてくる。


 「みんな、イヤな顔しやがる」

 「俺たちだって、やりたくてやってる訳じゃねえのによ」

 「仕方ねえよ。俺たちは、やるしかないんだから」

 「血の確認なんて、やっても意味ねえよ……」

 「意味のない業務ほど、やっていて苦痛なものはないぜ……」

 「おい、お前ら、いい加減にしろ」


 先頭を歩く、護衛隊長が振り向いた。


 「思っていても、口に出すんじゃあない」

 「でも、隊長だって、そう思ってるんじゃないすか?」

 「やることに、意味がある。それに、いくら言ったところで、俺たちはやるしかない。それ以上言うな」

 「……はい」

 「……んっ?」


 護衛隊長が前を向き直すと、ちょうど、路地の向こう側から、一人の男がこちらへと歩いてきていた。


 黒い髪の毛に、黒い瞳。口は微笑をたたえ、至って穏やかな表情をしている。


 「……」


 コクリと、黒髪の男はお辞儀をしながら、護衛数人とすれ違う。


 「すみません、ちょっと、よろしいですか?」


 護衛隊長が、振り向き、言った。


 「……」


 黒髪の男も止まり、振り向く。


 「なにか?」

 「血の確認は、お済みですか?」

 「血の確認ですか……」


 笑顔のまま、黒髪の男は答えた。


 「してないですね」

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