141 鉱山の村にて②

 「ぷっっっはぁ!」


 リートが去った後、ラクトは大きく息を吐いた。


 「はぁ~!まさか、一緒に交易に行くことになるとは思わなかった~!」

 「あはは。ラクト、そんなに緊張しなくても大丈夫だと思うよ。いい人だよ、リートさん」

 「何言ってんだマナト!いい人とか、そういうのじゃないだろうが!ムハド大商隊きっての超絶ベテラン、リートさんだぞ!?」

 「うん、ホントそうだよね。さすがに緊張したよ……」


 ミトもラクトに同意し、先まで固まっていた表情を緩めながら苦笑した。


 「こんなに早く同行させてもらえるなんて、思いもしなかった」

 「いやマジで、あのリートさんだぞ!?リートさん!」

 「分かった、分かったよ」


 マナトは納得した風の態度を装い、2人に合わせた。


 ……でも、ミトもラクトも、なんていうか、いい緊張感だなぁ。


 多少、萎縮してしまっている部分もあるが、2人の緊張感は、自分がかつて、日本で先輩に感じていた緊張感とは、全然違う気がした。


 2人のは、憧れから来る緊張感だ。


 「……でも、確かにマナト、さっき普通にリートさんと話してたよな。いつの間に仲良くなってたんだ?」


 宿屋に向かって歩きながら、ラクトがマナトに聞いてきた。


 「長老の家の書庫で、書簡の書き写し作業してて、そこにリートさんもやって来て、結構話したんだよね」

 「マジか~。こんなことになるなら、俺も長老の家の書庫に入り浸ってりゃよかったぜ~」

 「ラクト、書庫、入ったことあるの?」

 「そんなの一度もあるわけないだろ!」

 「ないのかよ!」


 マナトはラクトに突っ込みを入れた。


 日が、落ちようとしている。


 マナトは改めて、鉱山の村を眺めた。


 キャラバンの村より平地が少なく、ちょっと歩くと間もなくして、鉱山の断崖絶壁が行く手を阻んだ。


 しかしそこは、人間の知恵。


 その鉱山の斜面に沿うかたちで、木造の家や集会場、宿屋、市場などが連なっていて、村人達は、山の斜面に何階層にも張り巡らされた木の通路を利用し、自由に行き来していた。


 「アスレチックみたいな感じだなぁ……おっ、トンネルだ」


 そして、いたるところに、マナのランプやたいまつに照らされた、人工で掘られた洞窟が見られた。


 それぞれの洞窟の手前は、鉱石を運び出すためのトロッコが必ず設置されていた。


 まさに鉱山特有の風景が、そこには広がっていた。


 「……なるほど」


 洞窟を見ながら、ミトが言った。


 「深く掘り進めていけばいくほど、マナ石のランプが必要なんだろうね。だから、村長、リートさんにお願いしてたんじゃないかな」

 「あっ、なるほどね!そういうことか~」

 「よく分かったな、ミト」


 3人は洞窟を横切りながら、宿屋のある階層へと上っていった。

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