53 王国の夜
――カチャッ。
扉を明け、マナトは料亭の外へ出た。
――ヒュゥゥ~。
少し冷気をまとった風が吹いた。火照ったマナトの顔には、ちょうどよいくらいで、気持ちがよかった。
キャラバンの村で見たのと似たような、マナ石で灯るランプがそこいらで光り、夜の街中を明るく照らしている。
そして、夜でも道を行き交う人々。子供達も走っている。
王国らしい繁栄さを伺わせる、ステキな夜の光景だった。
……まるで平和そのものじゃないか。
日本のそれとも見劣りしないと、マナトは思った。
……いや、先日、盗賊団と戦ったし、今も王国の門では護衛団の人達が……うん、やはりちょっと、違うといえば違うか。
マナトは右腰につけている水壺と、左腰につけている、ミトに買ってもらったダガーに触れた。
これからキャラバンの村に、交易で得た品物や銀貨を持って帰らなければならない。それで、ようやく任務完了なのだ。
その道中、また盗賊やジン、またそうでなくても獰猛な生物が待ち受けているかもしれないし、油断はできない。
マナトは気持ちを入れ直した。
この王国の敷地を一歩でも出れば、危険と未知の世界が広がっているのだ。
とはいえ、このアクス王国が治安がいいというのは、目の前の光景を見ただけでも伺い知ることができた。
「ええと、トイレ、トイレっと……あっ、ここか」
料亭を出て右横に曲がったところの、お店のトイレに入った。
「おっ!ここのトイレも!」
マナト的、ヤスリブ世界のおもしろインフラというものがいくつかある。マナ石の灯りや、キャラバンの村の銭湯での、流しそうめん式の循環湯などがそれだ。
そして、このトイレもまた、その一つだった。
マナトは、トイレの天井から吊り下がっているヒモを、くいっと引っ張った。
――ササササァ~。
水ではない。トイレの底は斜めの傾斜になっていて、そこに砂が流れるような仕組みになっている。
砂式トイレだ。
最初はビックリしたが、砂漠が主流の世界らしくて面白いと、今では思っている。
マナトはトイレを済ませ、料亭に戻ると、先の料理人とすれ違った。
「あぁ、さっきの方、分かりました?トイレ」
「はい。ありがとうございます」
料理人は笑顔で頷くと、厨房に入っていき、料亭の亭主と少し話をして、調理に戻った。
――トントントントン。
料亭の亭主は包丁を持って、テンポよく野菜をみじん切りにしていた。
その光景を、何とな~く、マナトは見ていた。
「亭主~!」
別の料理人が料亭の亭主を呼んだ。
「あいよ~!」
亭主が振り返った。
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