314 ウテナ、運命に抗う力

 「……」


 ウテナは少し、震えていた。


 あの時の恐怖が、よみがえる。


 かつて、砂漠で遭遇したジン=グール。


 5、6歳くらいの子供に化けていて、それでいて、一人で砂漠を歩いてきた。


 その滲み出る殺意を向けられた時、自分がもはや喰われる立場でしかない運命であることを、否応なしに理解させられた。


 あの時、自分はなにもできなかった。足を動かすことが、できなかった。その殺意に、屈してしまった。


 だが、キャラバンの村のキャラバン達が、その殺意に、抗った。何度も再生する触手の化け物、ジン=グールに対して、抗い続けた。


 ……なにもできなかった。


 はじめての経験だった。


 ジン=グールは、キャラバンの村のキャラバン達が、追い返してくれた。


 《あ〜、もう!何かよく分からないけど、元気出してくれ!ウテナ!》


 ……ラクト。


 《次はぜったい、大丈夫だから!》


 ……分かってるわよ、ラクト。でも、アンタ、励ますの下手クソ過ぎ。みんながいる中、どういう表情して、顔上げればいいか、分からなかったんだから。


 ――グッ。


 ウテナは、ナックルダスターを装着した右腕に、力を込めた。


 震える手を、止める。


 ……運命に、抗う力を。


 「この時の、ために……!」


 ――ザッ。


 「おいウテナ。お前、手を出すなよ」

 「!」


 オルハンが前に出ていた。手に水筒を持っている。


 「おい、マナトとか言ったな。お前の名前と顔、覚えたからな」

 「それは、どうも」


 マナトそっくりの男は、オルハンの闘志溢れる空気感とは対照的に、にこやかに返事した。


 「俺と戦え」

 「戦え、ですか……さて、どうしましょうかね」

 「どうしたもこうしたもないんだよ!!」


 オルハンが水筒を上に放り投げた。


 ――シュシュシュ……!


 筒から出てきた水流が、オルハンを包む。


 ――ジジジジ……!!


 その水がオルハン手に集まる。手の中で、水が唸るような音をあげ、親指と人差し指でつくった丸から、手の中で圧縮された水……ウォーターアックスが姿を現す。


 ――バッ!


 オルハンが跳躍した。


 「くらえや!!」


 ウォーターアックスで、マナトそっくりの男……ジンに切りかかった。


 ――タッ!


 ジンが大きく飛び上がった。オルハンのウォーターアックスが空を切る。


 「飛びすぎだぜ!!」


 ――ブン!!


 オルハンは叫ぶと、足に力を入れた状態で、再度、ジンに向かってウォーターアックスを両手持ちにして横振りした。


 ――ジジジジ~ジジジ……!!


 「あっ!ウォーターアックスが伸びた!?」

 ウテナは驚いた。


 ウォーターアックスの、握りから刃にかけての柄の部分が、水圧の音とともに伸びてゆく。


 ――ブゥゥウン!!!


 射程の伸びたウォーターアックスの水圧の刃が、まだ着地できていないジンをとらえた。

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