449 絵画に描かれているもの

 ……いやぁ、この波描くために、いくらぐらいかかったんだろうな~。


 青結晶ラピスが、存分に使われているのだろう。波の表面はまるで、陽光の光を反射しているかのように輝いている。


 「……」


 マナトは、チラッと、周りを見渡した。


 「……」

 「……」


 言葉を発する者はおらず、ただ、その絵画を、見つめている。


 「ふぅんむ……!」


 ただ一人、イヴンが、時折、うなるような声をあげ、近づいてみたり、遠ざかってみたりしながら、絵画を眺めていた。


 淡い陽光の下……山が連なるように、美しくも激しく波打つ情景。


 ミト、リート、ケント……キャラバンの村の面々は、呆然として、口がポカンと開いていた。


 ……まるで、初めてこの情景を見たって、感じだ。


 この絵画の迫力に、圧倒されているようだった。


 シュミット、召し使い、ニナ……岩石の村の面々は、手応えを感じているようで、マナトと同じように、キャラバンの村のみんなや、公爵長のほうをチラ見したりしている。


 「……」


 サーシャは、特段表情は変わらず、ただ自分の描いた絵画を見つめていた。


 ……あっ、なんかヤバい。僕だけなんか、浮いてる気がする!


 マナトは泳ぐ視線を、絵画に戻した。


 ……これ、なんだろう?


 折り重なる激しい波に揉まれるように描かれている黒い物体を見ながら、マナトは思った。


 淡い陽光の、次第に暗くなりゆくグラデーション、また、第何波か分からないほどに激しく波打つその様は、かなりリアルめに、精巧に、緻密に描かれている。


 それに対して、黒い物体と粒々は、ベタ塗り感が強く、どこか抽象的で、なにを描いているのか、分からない。


 ……いやでも、たぶん、アレかなぁ。アレだよなぁ。


 先の尖った黒い物体を見ながら、マナトが考えているときだった。


 「すばらしい……!」


 イヴンが言った。


 「まさに、継続は力か……ここまで上手くなっているとは。それにこの情景……わしも長い間生きてきたが、未だかつて、このような情景は、見たことがない……!」


 かなり、上々の評価な感じだ。


 「……だが、しかし、この手前にある黒い物体と、その周り……景観の美しさを損ねているようにも見えるが……いや、決して!お主の作り上げたこの作品に、ケチをつける訳では、ないのだが……!」


 サーシャを気遣いつつも、イヴンは黒い物体や粒々を指摘している。


 ……やっぱり、そこは、気になりますよね。

 心の中で、マナトは言った。


 「……はい」


 サーシャが答える。


 「仰るとおりでございます。……でも、なぜか、描かなければ、ならない気がしました。私自身、どうして、こうしてしまったのか、分かりません」

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