605 入店してきた男

 入ってきた男は、少し汚れ跡のついている、清掃をする際に着用する作業服姿をしていて、空いている席はないかと、キョロキョロ店内を見回した。


 「亭主、看板娘ちゃん、ごちそうさま~!」


 するとちょうど、カウンターの席に座っていた一人が出ていった。


 「まいど~!……いらっしゃい。ちょうどそこのカウンター開いたから、座りなよ」

 「どもです」


 看板娘に促され、男は席に座った。隣には、キャラバンの若者。


 「……あなた、ちょっと若くない?いくつなの?」


 その男が、少年を少し成長したようなまだあどけなさの残る容姿をしているのが気になったようで、看板娘は尋ねた。


 「あははは……」


 しかし、男は笑うのみだった。


 「……そう」


 事情がありそうなのを察した様子で、看板娘は言った。


 「ごめんなさいね、なんでもないわ」

 「あぁ、いや。……清掃服、脱いだほうがいいですか?前に入ったお店だと、脱ぐように言われたのですが……」

 「いや、大丈夫よ。汚れたら、あとで拭けばいいし」

 「まあ、すでに小汚い店だからな」


 幼な顔の男の隣に座る、キャラバンの若者がニヤついて言った。


 「も~!またそんなこと言う!てゆうか、そもそもあなた達が酔ってお酒こぼしたりしてるから、どんどん汚くなってんじゃないのよ!」

 「へいへい、スンマセ~ン。……つ~か、あんた、」


 キャラバンの若者が、亭主に注文をしている幼な顔の男のほうを向いた。


 「あまり見ない顔だな」

 「あぁ、はい。最近西のサライの従業を終えたんです」

 「あっ!サライで働いているのか!じゃあ、もしかしたら、すれ違ってるかもしれないな!」

 「あはは、私は覚えていますよ。西のサライで」

 「マジかよ!」

 「……ですが、メロに帰ったら、こんな状況だったもので」

 「なるほどな。……しかし、帰ってきたタイミングが、悪かったようだな」

 「そうですね。いまは、日雇いでとりあえず食つなぐといった感じでして」

 「そうだったのか。……そうだよな。これまで通りとは、いかないよな」


 しみじみと、キャラバンの若者はつぶやいた。


 「ちなみに昨日まで、キャラバンサロン大会で清掃員してました」

 「おう、マジか」

 「えっ!それじゃ、ウテナさんも見たわよね?」


 看板娘が食い気味に尋ねた。


 「えっ?ウテナさん、ですか?えっと……」


 しかし、幼な顔の男は、あまりピンと来ていないようだった。


 「ほら、あれだよ。決勝最後に戦ってた、黒い髪のほうの女だ」

 「あぁ、その時たぶん、巨大テントの外で作業していました」

 「なるほどな」


 ――トンっ。


 話していると、幼な顔の男の前に出来上がったばかりの料理を置いた。


 「まだそんなに大きくないのに、偉いじゃないか」

 「ありがとうございます」

 「でもその服の感じは、仕事の合間なんだろ?」

 「はい」


 食べながら、男が言った。


 「いや、実際、アテはなかったんですよ。でも、大通り歩いてたら、なにやら騒動があったらしくて、結構な範囲でかなり散らかってて、その後処理で人手が足りないということだったので、さっきまで片付けやら修復やらで、手伝ってました」

 「あぁ、その事件ねぇ……ぷフフ」

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