420 ウテナ③/内に灯った光
「あ~あ、まんまと騙された、俺ぇ……」
はぁ~とため息をつきながら、ラクトは身体を横にして、長椅子に、仰向けになって寝転んだ。
そして、横目でウテナを見た。
「てか、なんでウテナ、この馬車に乗ってんの?」
「知らないわよ。気がついたら、乗ってたの」
「へぇ」
「それを言うなら、ラクト、あんただって、なんであんな、砂漠のど真ん中に立ってたの?」
「いや、あそこで、待つようにっていう、感じだったからな」
「待つようにって、誰の指示なのよ?」
「誰って……誰でもないというか、そういうもんというか」
「ねえ、この馬車、どこに向かってるの?」
「お前のほうが先に乗ってたんだから、知ってるんじゃねえの?」
「知らないから聞いてるんだけど!」
――ボン、ボン!
前方の布を叩く音がした。
「あぁ……ほらもう、運転士さんがうるさいって、怒られちゃったじゃないのよ……!」
「……ははっ!」
ラクトが顔を上に向けたまま、笑った。
「ちょ……なに笑ってんのよ」
「元気じゃねえかよ」
「あぁ……うん」
「いや、よかったよ」
「うん」
ラクトは満足そうに、笑顔で、真上を向いた。その茶色い、大きな瞳は、
「……あのね、ずっと、あたたかいの」
あの時……ラクトに抱き締められてから、ずっと、まるで、身体の奥の奥のほうに、優しく、でも強い、1つ星のような光が灯り、そのあたたかさが、身体中に行き渡る……そんな感じがしていた。
そして、それだけでは、なく……。
「あ、あの時、ね、その……あたしとキ、キス、した、でしょ?……」
かぁ~っと、ウテナの顔が、みるみる赤くなる。
「……」
自分で言っておきながら、それ以上、言葉が、出てこない。溢れそうになる気持ちを抑えるので、精一杯だった。
「あっ、それに関しては、俺、ぜ~んぜん、嬉しくねえんだけど」
至って冷静に……いやむしろ、少し冷めているようにも思える表情で、ラクトが言った。
「……はぁ!?なんですって!?」
ラクトの言葉に、思わず、ウテナは立ち上がった。
「だって、あれ、どう考えても、俺からダガーをくすねるための口づけだったじゃねえか!」
「あっ……いや、それは……」
ラクトは寝転びながら、愚痴るように続けた。
「はぁ~、やだやだ!あたかも俺のこと好きみたいな感じにさせといて、そりゃねえよな~!」
「……」
「なんか思わせ振りな感じとか、逆に傷つくっていうかな~!」
「……」
……いや、だってあのときは仕方なかったっていうかそりゃあたしも悪いのは間違いないんだけど今さらそんなふうに言われてもしょうがないしそもそも嫌いな相手に対してあんなことするわけないしもっとあたしの気持ち受け取ってくれてもよかったんじゃないの?って思うんだけどなんでダガーを取るだけって決めつけてしまってるのか意味分からないしそこんとこ分かってないのホントありえないんだけどっていうかラクトってホントに、
「……バカぁぁァァアアア!!!!」
すべての思いが、その一言に集約されて、ウテナの口から放たれた。
「ぅお!?」
あまりの大声で、寝転んでいたラクトが跳ね起きる。
「……」
そして、呆然として、ウテナを見つめた。
が、やがて、
「……ぷははっ!」
ラクトは愉快そうに笑い出した。
「あははは!なにでっけぇ声出して……ぷははっ!!」
「もう、笑ってる場合じゃ……ぷフフ」
ウテナもなんだかバカらしくなってきて、吹き出した。
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