397 諜報員本部③/7階

 「それに僕は、ジンに化けられていたことで、顔がわれている。いきなりこんなところに現れれば、お相手さん達は、きっと、ビックリするはずだ」

 「な、なるほど」

 「逆に、都合がいいはずだよ。完全に、僕に意識を向けさせることができると思う」

 「……」


 どんどん、3階の廊下を進んでゆく。


 「……それにしても、マジで人、いないな」


 ラクトが言うと、マナトはうなずいた。


 「確かにそうだね。おそらく、連日の騒動で、出払っている諜報員が、多いんじゃないかな」

 「あぁ、そういうことか」

 「……あっ」

 「あったな」


 進んでいくと、また、上へと続く階段が見えてきた。


 「さっきと同じで、僕が先行するよ」

 「おう」


 マナトが階段の折り返しの地点まで素早く上ってゆく。そして、ラクトへ合図。ラクトもマナトに続く。


 そうして、4階、5階、6階……、7階へと繋がる階段を、上り始めたときだった。


 「!」


 マナトの足が止まった。


 「……この上だ。諜報部隊がいる」


 霞む声でラクトに言った。


 「いよいよか……!」

 「さっき言ったとおり、僕が道をつくるから」

 「おい、マナト、本当にいいのか?一人で全員を相手にするって……」

 「別に戦うわけじゃない。僕はあくまでおとりだよ」


 マナトが微笑む。


 「つまり、僕は、逆にジンという言い訳がつくんだ。かなり危ないことやってるけど、捕まりさえしなければ、この潜入自体、ジンの仕業として、片付けることができる」

 「……」


 ……そこまで考えてたのか。

 ラクトは思った。


 「……マナト、お前やっぱすげえよ」

 「えっ?」

 「普段と違って、こういった切羽詰まった時とかに、驚くほど、度胸あるよな、お前って。おまけに、そんな時に限って、恐ろしいほどに冷静で、したたかに分析してるよな」

 「……そうかな?」


 7階へ。


 マナトが上りきると、その先へと繋がる通路の角で立ち止まり、ラクトに上がって来るように合図した。


 そっと、通路の角から、7階を眺め見る。


 そこは、これまでの階の、廊下の両側に部屋がたくさんというつくりではなく、広間となっていた。


 いくつか彫刻が置かれている。また、壁には、数点の絵画。


 その芸術品の前にマナ石のランプが置かれていて、それを照らすとともに、広間の明かりにもなっていた。


 下の階より、幾分か明るい。


 また、自分達が上ってきた階段以外からも、道は続いているようでここと同じような通路が、広間の四方に見受けられる。


 そして、広間の真ん中に、らせん階段がある。おそらく、最上階へと続いているのだろう。


 「!」


 そのらせん階段の下に、黒いマント姿の集団……諜報部隊がいた。


 「あのらせん階段の先だね」

 「そういうことだよな」

 「ラクトは、ここに」

 「ああ……」

 「あとは頼んだよ。ウテナは、君が救い出すんだ……!」


 ――タッ!


 言うや否や、マナトが広間に飛び出した。

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