305 大通りの、小さな酒場内にて
メロ共和国の国土は広大で、広さだけでいえば、アクス王国よりも広かった。
メインストリートと呼ばれるような通りは、国中に張り巡らされ、それはもれなく、宮殿、また各公爵が構える公宮のある、中央エリアへと繋がっている。
そんなメインストリートの中でも、もっとも広く、また市場の規模も、暮らす人々の数ももっとも広い、通称「大通り」。
かつてのワイルドグリフィンの急襲が、嘘のように、大通りは活気を取り戻していた。
居住区と市場とが入り交じっていて、毎日、夜になった今も、昼のような活気に満ちていた。
そんな大通りの一角、人混みで賑わう市場周辺にある、安い酒の飲める、小さな酒場内。内観は、カウンターと、テーブル席がいくつかあるのみ。
中にいるのは、若者がほとんどで、書生や、若い護衛、そして、最近キャラバンになった、駆け出しの連中などが、狭い空間にひしめき合っていた。
「おらおら、飲めよ~!」
若者達の、話し合う声が聞こえてくる。
「もう、いらん!」
「なに!俺の注ぐ酒が飲めないってか!」
「お前、飲むと変わるんだよ!」
「なにが!」
「ウザくなる!」
「なんだと!」
――ドンッ!
言い合いをしているテーブル席に、酒場の従業員の女が、つまみの入った皿を、勢いよく置いた。
「こら!!喧嘩するなら、外へ出なさい!!」
「おっ!看板娘!怒っている顔もかわいいね!」
「喧嘩しないよ!看板娘のために!」
「ったく、もう、調子よすぎ……」
酒場の看板娘は、やれやれと言わんばかりに、腕を組んだ。
――わぁ……!わぁ……!
と、なにやら、外がざわつき始めた。
扉の上の隙間、外の景色を見ると、自分達と同じくらいの歳の若者達が、走っている。
「うん?」
「なんだ、なんだ?」
酔ってもうろうとしている若者達が、外を眺めた。
「ウテナさんの商隊が戻ってきたんだわ!!」
――カチャッ!
看板娘が、酒場を飛び出した。
「あぁ!ちょっと!?」
酒場にいた若者達も、つられるように外に出た。
――わぁぁあああ!!!
「うぉ!?」
「なんだこの盛り上がり!?」
ただでさえ、日常から賑わっている場所である大通りが、それまでの活気がなんだったのかと思えるほど、盛り上がっていた。
「来た~!!」
「キャ~!!」
「かっこいい~!!」
黄色い声が、所々で聞こえてきた。看板娘も絶叫している。
皆の目線と声援の先。
十体ほどの、ラクダの列が見える。
そのラクダ達の先頭を歩く、肩まである黒髪に、女性にしては高めの身長、赤褐色の、少し切れ長の目の、薄緑色のマント姿の女。
「みんな、ただいま!」
集まったみんなの声援に応えるキャラバン、ウテナの姿があった。
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