135 マナトの一日⑥/ジンの種類

 「……フッ」


 リートが、少し笑いながらも、困ったような、複雑な表情をした。


 「何ともいえない気分になったっす」

 「……そうですよね。すみません」

 「あぁ、いや。まあ、いいんすよ。この話、やめましょ」


 リートは本棚へと向かった。


 「ウームーの地で手に入れたのは、珍しい武器や風車かざぐるまだけじゃないっす。ウームーでは、ジンの研究も積極的に行われてたんすよ」


 しゃべりながら、はしごを使って、本棚の上に置いてあった、丁寧に布でくるまれている木片書簡を一束、取り出してきた。


 布を取り外し、リートは書簡を机に広げた。


 ――カラカラカラ……。


 「これ、面白いっすよ。ジンの種類が書いてあるんで」

 「へぇ!ジンの種類ですか」


 マナトは興味津々で、その書簡を眺めた。


 「こういうのも、ウームーとの取り引きで手に入れた、貴重な交易品っす。大まかに分けて、ジンは5種類いるということが、明らかになったっす」

 「へぇ!」


 マナトは左に書かれているヤスリブ文字から、試しに読んでみた。


 「ジン……マリーぶヴァ!?」


 無意識に言うことを拒否してしまい、マナトは変な声を出して、次の瞬間、口を塞いでいた。


 ……ジン=マリード!!


 「んっ?マリードっすよ?マリー、ド」


 リートがマナトの言葉を訂正するような口調で言った。どうやら文字を言い間違えたと思われたらしい。


 「……あぁ、そうですよね、マリードですね。間違えました」

 「左から強い順に、マリード、グール、シャイターン、ジャン、リムっす」

 「なるほど、左から、強い順……強い順!!」

 「な、なんすか?2回繰り返して」

 「あぁ、いや、何でも。あはは……」


 ……あの料亭の亭主、ジンの中で、一番強い種類だったのか。


 「ちなみに、ここに書かれているマリードの強さって、どれぐらい……?」

 「マリードの強さは、他のジンを遥かに凌駕してしまっているんで。もしマリードが真の姿になったら、もう、おしまいっすね」

 「おっ、おしまいって……?」

 「村はおろか、王国ひとつ滅ぶっすね、余裕で」

 「……」


 ……アクス王国、ヤバいのでは?


 「ちなみに、真の姿っていうのは……?」

 「ジンって、普段は人間に化けていて、皆それぞれ、真の姿があるっす。ジン=グールとの戦いの時も、その一部は見たって、ケントから聞いたっすよ」

 「あぁ……」


 ジン=グールと戦った時の、黒と緑に怪しく光りうねっていた右腕を、マナトは思い出した。


 「マリードの真の姿は、超巨大な化け物っすね。一歩歩くだけで1000人が死ぬと言われてるっす」

 「ひぇ……」

 「……だけど、ジン被害の中では、実はマリードはかな~り少ないんすよ、ウームーの統計によると」

 「あっ、そうなんですか」


 すると、リートは書簡に書かれている、真ん中のジンを指差した。


 「いま、一番、人間に危害を加えているのは、こいつ。シャイターンっす」

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