51 アクス王国/涙

 王国には旅客用の宿屋があり、そこにケント商隊とフィオナ商隊は宿泊することになった。


 その宿屋の近くには多くの客でにぎわう料亭があり、交易品の完売も祝して皆で食事をすることになった。


 「はい、は〜い!ちょっと待ってね〜!」


 恰幅のよい、丸いメガネをかけた亭主が注文を聞くと、ご機嫌な様子で厨房へと行き、大きなフライパンを動かしたり、包丁をトントンしている料理人達に指示を出していた。


 「いい旅だったわ。途中、いろいろあったりはしたけど……」

 フィオナが、ケントを相手に、満足そうに、これまでの道のりを振り返っていた。


 「ホント、全部売れて、よかったわね」

 「やっぱり、マナトのあれだよ、『王宮からの』のくだりがよかったよ」

 「うん。みんな、あの言葉聞いて、止まってたし」

 マナトの向かいに座っている、ウテナとラクト、ミトが言った。


 「あ〜、でもあれ、よかったのかな?あはは……」


 マナトは頭をかきながら、王宮を引き合いに出してよかったものかと、今さらながらちょっと気にしていた。


 「大丈夫だと思いますよ。事実、そうですし」

 マナトの隣に座っているルナが弁明してくれた。


 「そうね、マナトくん、すごいと思うわ」

 フィオナはケントを挟んで、マナトの一つ隣に座っていたが、少し前のめりになって、マナトに言った。


 「でも、マナトくんて、ルナから聞いたけど、キャラバンの村に来たの、最近なんでしょ?」

 「あっ、はい。そうですね」

 「どう?よかったら、私たちの、西の国にも、来てみない?」

 「えぇ!?」


 フィオナの言葉に、ミトとラクトがすっとんきょうな声をあげた。


 「おい、フィオナ。いくら何でも、そりゃ無理な交渉だぜ。マナトは俺たちのキャラバンだからな」

 「そっ、そうそう!」


 ケントの言葉に、ミトが何度も頷いた。


 「マナトは俺たちにとって、必要な存在なんだぜ!」


 ラクトが言うと、


 「あら、私たちにとっても、必要な存在よ?ねっ?ルナ」

 「えっ、あの……」


 フィオナの言葉に、ルナは戸惑いながらも、恥ずかしそうに、うん、と頷いた。


 ケントが立ち上がった。


 「おっ、おい!卑怯だぞ!そんな色気攻めだなんて!」

 「い、色気なんて、つかってません!」

 「ダメだぞ!マナトは俺たちのマナトだからな!」

 「そうそう!」

 「でも本人がよければ別にいいんじゃない?」


 口論にウテナも加わった。


 「ダーメーだ!」


 ――ぐすん。


 「えっ?」

 「おい?マナト……?」

 「おいおいどうした!?」

 「いや……、う……嬉しくて……」


 マナトはただ、幸せだった。満たされていた。


 皆から必要とされる喜びを、かみしめていた。


 (マナト、行商編 終わり)

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