628 ハディーシャ、さらに困惑/サーシャの視線

 サーシャと召使いハディーシャはムハドに促され、他のキャラバン達が会議をしている円卓へ。


 セラをはじめ、キャラバンの村の面々が円卓を囲むかたちで座っている。


 ……あっ、そっちに行きますの?サーシャ様。


 サーシャは空いていたセラの隣へ腰かけた。ハディーシャはサーシャの後ろへ。


 「……あなたも、」


 するとサーシャが振り返り、ある席を指さして、言った。


 「そこ、かけたら?」

 「!」


 サーシャと同じタイミングで、向かい側に着席したムハドの隣の席が、空いている。サーシャの人差し指はそこをさしている。


 「い、いや、私は……」

 「……」


 ……え、えええ……まずいですわサーシャさま。ムハドさんは相手の心を読めるのですよ!そんな、隣の席なんてある意味拷問のような……いやでも別に座りたいといえば座りたいというか……!


 「うん、そうだな」


 するとムハドがうなずき、言った。


 「そこで立っているのは疲れるだろう」

 「は、はい!」


 ……こ、こうなったら、無よ!無!


 促されるまま、ハディーシャは空いているムハドの隣の席へ。


 「ジンの影響で国内が目に見えて乱れ始めた」


 ムハドは話し始めた。


 「これまでも起きてきたが、今夜、どうやらメロ国内で大規模な暴動があるっていう情報が諜報部隊から入っているようなんだ。ムスタファ公爵は……」


 ……あぁ、聞き心地のいい声……い、いけないいけない!


 真剣な話をしていることを一瞬忘れかけたハディーシャは、真剣な顔が一瞬崩れそうになったのを、なんとか堪えた。


 「あ……」


 向かい側に座っているサーシャと、目線が合った。


 「……」


 ……じゃ、若干、サーシャ様、口角が、ピクピクしてるような……。


 「……っ」


 サーシャはスッとセラのほうを向いて視線をそらした。長い金髪にサーシャの顔の表情が隠れる。


 ……ぜ、ぜったい笑ってる。いま、サーシャ様、ぜったい、笑ってますわ。


 ハディーシャはそう思うと、たまらなく恥ずかしくなってきた。


 ……もしかして、サーシャ様、わ、私にわざとムハドさんの隣に……!?


 「……」


 と、サーシャの顔がセラのほうを向いたままになって、固まっている。


 「……ねえ、それって……」

 「ああ、これは……」


 サーシャがセラに話しかけている。


 「マナの兵器の図を模写したもの……」


 するとサーシャはつぶやきながら、セラの前に置かれていた一枚の紙を手に取った。


 「……」


 サーシャはその紙を、真剣な面持ちで見始めた。


 ……あら?


 ハディーシャはサーシャが幼い頃からの付き合いで、ちょっとした表情の変化で、ある程度は心境を読み取ることはできた。


 ……なんか、ものすごいことが書いてあるようですわね。


 「……これ、ヤスリブ文字じゃ、ない……」


 サーシャはつぶやくと、立ち上がった。


 「……マナトは?」

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