メロ共和国 前編

キャラバンの村で

207 長老とリート

 昼前の、陽の光が少しずつ高くなり、キャラバンの村の建物や人々の影が、だんだんと小さくなってきた頃。


 密林寄りの農作業エリアでは、緑色に染まり、農夫達が野菜や果物を収穫したり、水壷で水をまいている。


 水は太陽の光に反射して、そこいらで小さな虹をつくっていた。


 また、中央広場エリアでは市場が開き、人と人とが頻繁に行き交い、買い物をしたり、少し早めの昼食を取っている者もいた。


 ――カン、カン、カン!


 広場にある高台にある鐘が鳴った。


 「キャラバンが帰って来たぞ~!」


 護衛担当の大声が響いていた。


 そして、砂漠寄りの住宅街エリアでは、婦人達が外に出て、洗濯した家族の服を干し竿に干していたり、長椅子に座って、楽しそうにおしゃべりしていた。


 「知ってる?キャラバンのあのコ、あの家の娘さんと……」

 「えぇ~!ホントに……!?」

 「ホントよ!ホント!」


 婦人達のささやく声が響いていた。


 そんな砂漠寄りエリアの一角にある、長老の家の中。


 「う~む」


 居間で、長老が書簡を眺めながら、何やら考えを巡らせている様子で、唸っていた。


 「どうしたんすか?長老」


 書庫に入って作業していたリートが、居間に入りながら聞いた。両手に木片書簡がいくつか持たれている。


 「おう、リートか」

 「ずいぶんと唸ってたっすよ、いま」


 ――カラカラカラ……。


 言いながら、リートは木片書簡をテーブルの上に広げ、長老に見せた。


 前に、リートとマナトで話題にしていた、ウームー地方で仕入れた、ジンに関する書簡だった。


 「これ、作業済みの木片書簡っす」

 「うむ、ご苦労」

 「燃やしちゃっていいっすか?」

 「いや、これは取っおいてくれ」

 「またっすか?」


 リートはちょっと、困った顔をした。


 「いや、別にいいんすけど、もう、置く場所ないっすよ?」

 「それはジンに関する重要な書簡じゃ。予備じゃ予備」

 「最近、そればっかじゃないすか」

 「仕方なかろう。ジンに限らず、ウームーの書簡は、木片だろうと石板だろうと、すべて取っておいてくれ」

 「マジっすか……」

 「それより、リート、ラクダは、どのくらい減ったかの?」


 リートは一旦離席し、ラクダの交易状況をまとめた書簡を持って戻ってきた。


 「ええと……残り、300頭っすね」

 「ふむ、そうか……」


 すると、長老はまた、長い白いアゴ髭をさすりながら、何やら考え込んでいた。


 「さっきから、なに考えてんすか?」

 「メロ共和国からの依頼でな」

 「メロ共和国……なるほどっすねぇ~」


 リートは意味ありげにつぶやき、開いた木片書簡をくるくる巻いた。


 「そんで、ラクダを何頭って言ってんすか?」

 「100頭」

 「ほぉ!いや、よかったじゃ……」


 リートは言いかけたが、長老の表情を見て、言うのを止めた。


 「……」


 リートは言い直した。


 「交易、迷ってるんすね?」

 「まあの」

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