320 激闘⑥/ウテナの一撃
ジンが、片手をあげ、耳にあてた。
「私には、もうすでに、その声が聞こえているのですよ、ウテナさん……」
そして、目を閉じて、心地良さそうな表情をして、穏やかな声で言った。
「あなたにも、もうすぐ、聞こえてくるはずです」
「聞こえてくる……」
ウテナはどうしても、ジンの言葉を聞いてしまっていた。聞かずにはいられない、なにかがあった。
「なにが……?」
「あなた自身が生み出した、嫉妬の声、差別の声、とでも言えばいいでしょうか……」
「そんな……あたしは……」
「あなたのような方の、宿命なのですよ。相対的な幸福は……」
「おい!ウテナ、もう取り合うな!」
オルハンが、途中でジンの言葉を遮ると、右手をかざした。
――シュルル……!
地面に落ちている水筒から、水流が地面を這うようにして、オルハンの右手に集まってゆく。
「アイツにもう、しゃべらせるな!お前はもう、考えるな!」
叫び、オルハンは駆け出した。
「チャンスは一回だけだからな!俺が動きを止めるから、ウテナ、アイツの顔、思いっきり殴り飛ばせ!」
――ジジ……!!
「くらえ!!」
水圧の音がいななくウォーターアックスで、ジンに一閃を放った。
――ギギギ!!
ジンが再びダガーを抜き、ウォーターアックスを受け止める。
「ウテナ!!」
「はい!!」
……いまは、考えている場合じゃない!!
頭の中にある砂嵐を、ウテナは無理矢理振り払った。
地面を蹴った。駆ける。ジンの横に滑り込む。
「!」
ウテナに気づいたジンが、ウォーターアックスを撫でるように振り払い、ウテナに刃を向けた。
――タッ!
一瞬、足を細かく刻む。
ジンの攻撃の呼吸に合わせて、刃の軌道から外れる。
――スッ。
ダガーの刃が、ウテナの頬を、ほんの少しだけ触れた。
「いま!!」
血が滲む隙もないほどの、一瞬の間。
――ドッ!!!!
ウテナの鋭く放った右カウンターが、ジンの横顔に直撃した。
「やった!!」
「っしゃあ!!」
ウテナ、オルハンは思わず雄叫びをあげた。
ジン……マナトの顔の、ちょうどウテナの右拳が炸裂した、片方の目から頭部あたりが吹き飛んで、3分の1くらいが跡形もなくなった。
「へっ!顔を吹き飛ばせば、さすがに……」
オルハンが言いかけた、その時、
――ムクムク……。
「あっ……」
その部分が、少しずつうごめき始めた。
――ムクムク……。
「そんな……」
吹き飛んだ頭が、再生してゆく。
「あ、頭を吹き飛ばしても、やはり、ダメなの……!」
――ムクムク……。
「こ、これは!?」
ジンの顔……再生した部分が、灰色になっている。再生してゆく形状も質感も、マナトのそれではなかった。
「くははっ、やってくれましたね……!」
3分の2がマナトの顔、もう3分の1が、灰色の異形と化したジンが、笑った。
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