469 ムスタファの公宮

 サーシャはマナトに視線を注ぎつつ、言った。


 「私の村の護衛たちだって、過去を乗り越えようと、決意してくれている……そうでしょ?」


 《今度は、一緒に行くからな……!》


 出立のときの護衛の言葉が、マナトの頭によみがえる。


 「はい……そうですね!」


 ――キィィィ……。


 ゆっくりと、馬車が止まる。


 「お待たせ。ムスタファ公爵の公宮に着いたよ」


 運転士が布をまくり上げて、言った。


 「ありがとうございます」


 マナト達は馬車を降りた。


 先に到着した馬車からも、シュミットをはじめ、ぞろぞろと降りてきている。


 門の前には、先のイヴン公爵長のときと同じで、護衛が2人立っている。


 「ほぉ~!?」


 ニナが食い入るようにその護衛たちの先を眺めた。


 「なんと!お花がこんなに……!」


 門の先、白とシアンの美しい花が随所に咲いている、彩り豊かな緑の庭園となっていて、花と花の間を蝶々ちょうちょが飛び交っている。


 そして、そんな庭園の先に、白いたまねぎ屋根の建物。イヴン公爵の建物とは形状が違って、建物に高さはないが、増築した関係か建物が多く、やはり豪邸には違いなかった。


 「ふ~む~!……おっ?」


 庭園の左手に、女の子と、青年の男。2人とも、ニナを見ている。


 ニナは2人に手を振った。


 「やっほ~!」

 「おい、ニナ」


 門にしがみついて庭園を見ているニナを、ケントがニナを担ぎ上げようとした。


 「ちょ……おい!」

 「いや~!」


 ケントに担がれつつ、ニナは門にしがみついたまま、離れまいとバタ足している。


 「……」


 護衛たちは、困ったように顔を見合わせている。


 「岩石の村のシュミットと申します。お勤め、大変にお疲れさまでございます」


 シュミットが護衛たちの前で合掌し、慇懃に挨拶した。


 「お、お疲れさまでございますです……!」


 護衛は緊張気味にシュミットに、合掌し返しつつ、返事した。


 「ええっと……」


 護衛は口ごもっている。


 肩のラインに金色の線が入った緑と紫の装束に、金髪の頭の上に、黒のリングでとめた白クーフィーヤという出で立ちのシュミットは、はたから見れば、どこかの国の貴族にしか見えない。


 「ムスタファ公爵の依頼で、彫刻の納品に参りました」

 「あっ、彫刻……?」


 護衛の一人が門の中に入って、青年の男のもとへ。


 すると、庭園にいた女の子と青年の男の2人が、門の前までやって来た。


 2人とも、澄んだ青い瞳をしていて、柔和で好奇心のありそうな表情を、シュミットや他の者達、馬車に向けている。


 「こんにちは」


 青年の男が、笑顔でシュミットに言った。


 「こんにちは。岩石の村のシュミットと申します」

 「父上から、聞いております。お入りください。馬車も、庭園の空いているところへ。……では、護衛の方、門を開けてください」


 ――ギィィ……。


 門が開く。


 「わ~い!お客さんだ~!」

 女の子もはしゃいでいる。


 一行は、庭園内に入った。

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