96 オアシス/砂時計①

 食事を終え、ケントは立ち上がった。


 「じゃあ、寝ずの番は……1番、ミト!」

 「はい!」

 「2番、マナト!3番、ラクト!んで、俺だ。たぶん、2回くらい、回ってくると思ってくれ」


 ケントは順番を決めると、ラクダから降ろした荷物の中から、砂時計を取り出し、地面に置いた。


 四方がアメ色の木の柱で支えられている、オーソドックスな砂時計だが、中央のガラス部分はかなりくびれていて、砂がギリギリ通るくらいの通路になっていた。


 そして、片方の容器には細かな砂が目一杯入っている。


 ――サラサラサラ……。


 ケントが砂時計をひっくり返すと、ものすごく、ゆったりとしたスピードで、砂時計は砂を落とし始めた。


 「これがなくなったら、交代ってことで」

 「了解です」


 ……砂時計が交代の合図か。


 砂漠の世界らしい。それになんかオシャレだと、マナトは思った。


 ミトは砂時計を持って、ラクダ達の寝ているほうへと向かっていった。


 「んじゃ、俺たちは寝るとすっか~」

 他の3人は寝袋に入った。


 ――ニャッ。


 マナトの寝袋に、スナネコが入ってきた。


 少し寝袋内でもぞもぞすると、仰向けのマナトの胸の上で、顔だけ出した。


 食事後のせいもあってか、目を閉じて寝始めた、スナネコの体温が伝わってきて、温かい。


 スナネコの身体をなでてやりながら、マナトは垂れヤシの木を見ていた。


 ……自然にできた、テントみたいだな。


 さすがに建物の中とまではいかないが、それでも垂れヤシの木があるだけで、ぜんぜん違う。


 身体はドロドロだが、それを考えている余裕は、いまはなかった。


 そもそも、今日は、ず~っと歩き続けてきたのだ。もう、疲れに疲れていた。


 すぐに、猛烈な眠気が、マナトを襲った。


 ――ス~。


 もう、ケントもラクトも、寝息を立て始めていた。


     ※     ※     ※


 「マナト~」

 「う~ん……」


 身体を揺すられ、マナトは目覚めた。ミトが、申し訳なさそうにマナトを見下ろしている。


 「あっ、交代、だね……?」

 「うん。……すごい、起こすの躊躇ったよ。大丈夫?」

 「大丈夫、大丈夫だよ……」


 ……嘘です。めっちゃ、眠いです。眠眠だ……いや、あるわけないか。


 マナトの胸の上で寝ていたスナネコをそっと抱き上げ、起き上がった。


 スナネコは寝袋に寝かせてやり、毛布だけ持つと、ミトと交代した。


 「とりあえず、何もなかったよ」

 「分かった。ミトもお疲れさま。ゆっくり休んで」


 砂時計を持ち、マナトはラクダ達のもとへ。


 荷が摘まれたまま、ラクダ達は熟睡していた。


 ラクダ達のいる垂れヤシの木を出たところで、マナトは石の上に座り、毛布にくるまった。砂時計をひっくり返す。


 ――サラサラ……。


     ※     ※     ※


 「マナト、お疲れ。交代だ」

 ケントの声がした。


 「……えっ?」

 「フフッ、お前、座ったまま寝てたぜ」

 「あっ!あちゃ~……やっちゃった」

 「まあ、幸い、何も起こってないみたいだな」

 「すみません……あれ?ラクトですよね?」


 マナトの次は、ラクトのはずだった。


 「いいってことよ。ラクトも、起きる気配がないから、とりあえず俺が見張っておくぜ。こういう時の、先輩だからな」


 ……やっぱり、頼りになるなぁ。


 「ありがとうございます。甘えさせていただきます」

 「おう」


     ※     ※     ※

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