68 死闘⑤/ジン=マリード

 マナトは懐に手をやった。


 「……いや、まだだ!!」


 ――カランッ。


 マナトの懐から、先まで使用していたのと同じ水壷が出てきた。


 新たな水流がマナトを包む。


 「あら〜、ちゃんと予備を隠し持っているとは、準備いいね~!」


 再び、ジンは人差し指に火を灯した。


 「ミト!ラクト!ヒットアンドアウェイだ!」


 マナトは2人に言った。


 「えっ!?」


 ミトとラクトが、マナトへ視線を向けた。


 「さっき、時間稼ぎでミトがやった戦いだ!攻撃して、すぐ引く、これを確かに今、ジンは嫌がっていた!だから、ミトの心を揺さぶるような、怒らせるようなことを言って、冷静な判断をできないようにしていたんだ!」

 「!」

 「2人の言うとおり、やっぱり、ジンの口車に乗っちゃいけない!」


 マナトは強めの口調で、ミトとラクトに語りかけた。


 「もしかしたら、持久戦は苦手なのかもしれない!2人とも、前に盗賊団と戦ったように、冷静に!!」

 「……そうだった。戦いは、常に冷静に」

 「……マナト、ありがとう」


 ラクトとミトが、立ち上がった。


 2人は、すぅ〜っと息を吸い、腰を低くした。


 「……」


 無言で、ジンは3人を見つめていた。


 「マナト、援護しろ。ミト、俺がアイツを止める!もっかい、3人で戦うぞ!!」


 ラクトが跳躍した。ダガーで攻撃。ジンはかわし、手を伸ばした。ラクトはサッと身を引く。右から、ミト。ダガーと包丁が交差する。


 隙を与えずテッポウウオを3発。ジンは避けるために飛び上がった。


 しかし上には、ラクト。


 ――ガギッ!!


 ジンの包丁の防御が少し遅れた。刃が横向きで、ラクトのダガーを受け止める形になった。


 「ぉらあ!!」


 叩きつけるように、ラクトはダガーを振り抜いた。


 ――パキィィイン!


 ジンの持つ包丁の刃が折れた。


 「いけ!!ミト!!」


 ミトが跳んだ。


 ――ズバァァァ!!


 ミトの振り上げられたダガーは、斜め一直線に、ジンの左腰から右肩までを切り裂いた。


 「よし!!」

 「何がよしなのかなぁ~?」

 「なに!?」


 ジンは折れた包丁を投げ捨てた。


 次の瞬間、


 「……えっ?」


 ミトとラクトは吹き飛んでいた。蹴り飛ばされたが、一瞬過ぎて2人とも理解できていない。


 マナトがすかさず水流を動かす。


 「させないよ~!」


 ジンが手を振る。炎が飛ぶ。マナトの水流は蒸気となった。


 ――ザザッ!ザッ!ゴロゴロ……。


 ミトもラクトもなんとか受け身を取った。そこへジンが追い討ちをかける。


 ジンの攻撃が激しくなってきた。持久戦が苦手どころじゃない。時間が経つにつれてどんどんスピードは増してゆく。


 「はいはいは~い!!」


 手刀にも関わらず、ダガーで応戦するミトとラクトに切り傷がどんどんつけられていく。逆にジンの傷はもう閉じられて、痕すらない。


 マナトが水で援護しようとしても、ことごとくそれを上回る火力で消される。


 ――ピンッ!


 ジンの手刀が、ミトとラクトのダガーをはじき飛ばした。


 「や、やめろぉぉおおお!!!!!!」


 マナトの悲鳴がこだました。

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